北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新空母クイーンエリザベス公試開始,F-35B戦闘機が拓くSTOVL空母新時代と我が国DDH

2017-06-27 22:48:12 | 先端軍事テクノロジー
■F-35,STOVL空母新時代到来
 F-35Bを搭載する軽空母、所謂STOVL空母はSu-27戦闘機等を搭載するより大型のCTOL空母へ対抗し得る、という論点を考えていましたら、イギリスから世界初のF-35B用STOVL空母の話題が来ました。

 F-35戦闘機、本日も三菱FACOにて飛行試験が実施されており、日本向け五号機にあたるAX-5の試験は順調に進んでいます。そんな中、イギリスより新空母クイーンエリザベスの公試開始の一報が入りました。クイーンエリザベス級空母一番艦クイーンエリザベスは除籍されたインヴィンシブル級軽空母代替として二隻が建造されるイギリス海軍最新艦です。

 スコットランドのロサイス造船所を出航した新空母クイーンエリザベスは総建造費30億ポンド、邦貨換算4300億円という費用を投じ建造されました。アメリカ海軍のニミッツ級空母と比較し七割程度の大きさですが、アメリカ以外の空母としては世界最大です。当初は2008年頃に就役する計画でしたが、前級に当たるインヴィンシブル級軽空母は満載排水量20900t、後継艦は当初40000t程度を計画していたものの大型化を求める声も強く二転三転、時間を要しました。

 日本は空母を保有していませんが、しかし、海上自衛隊にはDDH,ヘリコプター搭載護衛艦として満載排水量19000tの護衛艦ひゅうが型2隻、満載排水量27000tの護衛艦いずも型2隻が運用されており、実に4隻が運用中です。一隻の大型艦に全て纏めるのではなく、必要な機能を4隻の全通飛行甲板型護衛艦へ分散し、求められる運用に対応する方式を採っている、ともいえるやもしれません。

 クイーンエリザベス、二番艦プリンスオブウェールズ、ともに建造が進み一番艦は本年就役予定、二番艦は2020年に就役し、満載排水量65500t、F-35B戦闘機等艦載機40機を搭載します。クイーンエリザベス級は垂直離着陸型のF-35Bを搭載する為、STOVL空母という一種の軽空母となりますがCTOL空母たるフランスのシャルルドゴールよりも大きい。

 いずも型護衛艦の満載排水量が27000tですので、クイーンエリザベス級の大きさが良く分かりますが興味深いのはこれだけ巨大な空母ながら、通常の戦闘機を運用できるCTOL空母ではなく、垂直離着陸機を運用するSTOVL空母である点です。実はイギリス海軍も一時、CTOL型のF-35Cを導入する方針へクイーンエリザベス級の設計変更を考えていました。

 F-35Bを導入するという計画の下イギリスはF-35開発JSF計画に参画していましたが、F-35Cは戦闘行動半径が開発当時、空軍型のF-35AやSTOVL型のF-35Bよりも大きく、運用柔軟性を考えればCTOL機を運用できる大きさの船体を有しているのだから設計変更すべき、という視点でした。F-35Bは一機一億ポンド、これだけ高価ならば慎重になる。

 イギリスは現在財政難にあります。2007年の欧州金融危機によりイギリスの主要産業であった金融業が壊滅的打撃を受け、特に欧州連合EUに加盟しながら欧州統一通貨ユーロを導入せず、欧州中央銀行金融規制を受けない為に金融取引手数料等を全欧の金融取引所よりも低く設定し欧州全域の金融取引の中枢を担った為、金融危機は痛い打撃となりました。

 財政難下のイギリスでは、国防費が大幅縮小を強いられ、チャレンジャー2主力戦車近代化改修計画中止、ASCOD装甲戦闘車調達計画中止、タイフーン戦闘機近代化改修中止と初期型早期退役、26型フリゲイト建造計画延期、矢継ぎ早に各種装備計画が中止され、基地施設も続々閉鎖、陸軍師団2個集約案が示され、艦隊も水上戦闘艦20隻を維持できないというかなりの削減を行いまして、新空母を維持する負担の大きさが垣間見えます。

 最優先度の計画として財政難下、クイーンエリザベス級建造は継続されました。この背景には、建造契約が既に欧州金融危機の時点で完了、今更建造中止としても違約金の総額が建造費を上回る為に中止できぬ事由もありましたが、二番艦売却案やコマンドー空母案等取沙汰されたのを経て本日、一番艦クイーンエリザベスは公試開始に漕ぎ着けたのですね。

 一方、F-35Bですが、新しい展開を秘めた航空機です。垂直離着陸が可能なF-35Bは、しかし同時に第五世代戦闘機であり、Su-27戦闘機やF-15C戦闘機といった陸上基地から運用される戦闘機を圧倒できる性能を有しています。そして、イギリスは当初、ここまで開発が長引かなければ、F-35Bをインヴィンシブル級軽空母での運用を検討していました。

 アメリカの同盟国や友好国でなければ、F-35は導入できません。そして日本はF-35Aを試験運用中ですが、インヴィンシブル級軽空母と同程度の艦、海上自衛隊の護衛艦ひゅうが型はF-35Bを、飛行甲板へ耐熱材追加等必要でしょうが、運用可能である事を端的に示しています。F-35Bに対抗する空母艦載機といえばSu-27ですが必要な船体甲板長が大きい。

 日本が導入する機体は空軍型F-35Aですので、護衛艦に発着艦する事は出来ません。イギリスは空軍もF-35Bを導入しますが、イギリス空軍にはEF-2000タイフーン戦闘機が多数配備される前提があり、F-35Bはその上で導入される事となった為、日本がF-35Aを導入する事はある種当然の判断なのですが、F-35AとF-35Bの整備共通性は高いとされている。

 専守防衛の日本にこうした運用が必要かは一考の余地がありますが、防衛上空白地域である小笠原諸島への隣国による空母建造を通じた脅威波及、また東南アジアの我が国友好国への隣国空母による軍事恫喝への牽制、専守防衛を国是としていても、専守防衛を記す憲法が禁じた国際紛争に発展しないよう、予防外交の延長線に必要な措置は数多くあります。

 ひゅうが型2隻、いずも型2隻、海上自衛隊の予算と人員規模では仮に同盟国アメリカが運用するニミッツ級航空母艦を導入するには防衛大綱を改訂し増勢せねば成り立たず、一方、一隻導入しても整備補給と重整備のローテーションが組めません。クイーンエリザベス級の規模であっても、相当厳しい。しかし全通飛行甲板型護衛艦ならば四隻に振り分けて整備する事は出来ました。その上で、F-35Aを導入した訳ですので、新しい日本の防衛へどのように活用するか、考えてみる時期が来たのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (20)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする