■イギリス下院総選挙2017
イギリス下院総選挙2017速報記事です。イギリス保守党が議席数を減らし過半数を割りました、EU離脱交渉本格化前の歴史的出来事です。
イギリス総選挙下院650名、テリーザメイ首相がイギリスのEU離脱交渉の方向性を決めるとして前倒しで実施しましたイギリス議会下院総選挙、日本時間今日の開票の結果が出ました。与党保守党は議席を減らし、過半数を維持できませんでした。ただ、保守党第一党を維持しており、野党第二党も過半数を獲得できたわけではなく、半数議席を握る政党がない“宙吊り議会”という状況となります。イギリス議会は二院制ですが、イギリス上院は終身議員による貴族院で最高裁機能を果たすものであり、下院議会の位置づけは非常に大きいのです。
与党保守党は改選前の330議席を維持できず317議席へと転落しました。最大野党の労働党は改選前229議席から議席数を伸ばし261議席を獲得します。スコットランド民族党は改選前54議席を35議席へと減らしており、自由民主党は改選前9議席を12議席へと伸ばしました。なお、イギリス独立党は改選前0議席ですが選挙後も現在のところ0議席のまま、残り2議席の開票作業が進められています。
EU離脱については、保守党とイギリス独立党が賛成を掲げ、EU離脱反対を掲げるのは労働党と自由民主党及びスコットランド民族党です。結果、保守党が過半数を割り込み、EU離脱を掲げる他の政党が議席を獲得できなかったことから、下院議会ではEU離脱反対派が過半数を維持している事となります。ただ、EU離脱交渉は既に数週間を経て本格化するため、保守党は少数与党として政策ごとに野党と調整するか、EU離脱反対政党と連立与党を組み、イギリスへ有利な通商条約等の締結を念頭とした離脱交渉を進めなければなりません。
メイ首相は第一党を維持できた意義を強調し、第一党としての責務を強調しました。イギリス保守党が維持できた議席数は314議席、下院議席数650議席の過半数は325議席で、過半数に12議席及ばなかったため、今後の議会運営において保守党は野党との連立内閣や妥協などを必要とします。ただ、イギリスは連合王国であり、議会登院を拒否している北アイルランドのシンフェイン党が議席を有している事から、実際の過半数は323議席程度です。しかしそれでも保守党の議席数314議席は足りません。
EU離脱の方針を画定する事が目的として前倒しの総選挙となりました。これはEU離脱を掲げる保守党支持率の高い時期に敢えて前倒し選挙を行う事で、過半数を維持し、この中でもハードブレクジット、通商交渉などでのイギリスへ有利な内容を維持するための長い交渉ではなく、短期間で確実に離脱する事を重視する基盤を確保する事が目的でした。しかし、結果は少数与党に転落する事となり、メイ首相への求心力の低下、そして今月中旬から本格化するEU離脱交渉への影響等が考えられるでしょう。
投票に影響を及ぼした要素の一つがテロ対策です。EU離脱に関する当初の楽観論が大きく外れた事は最大の保守党敗北要員、具体的には労働党への支持が集まった背景と云えますが、併せてメイ首相の内務大臣時代に治安関係予算を削減し警察官などを縮小した事がイギリス国内において三か月間に三度ものテロ事件を許したとの解釈があります。保守党は労働党もテロ対策法案に反対したと抗弁しましたが、警察官の不足によりテロ容疑者の充分な監視体制を維持できなかったとのロンドン警視庁発表が有権者を動かしたのでしょう。
メイ首相は下院議員、枢密顧問官、内務大臣、と保守党の要職を経て第76代イギリス首相に就任しました。第一党を維持したことを強調するメイ首相ですが、過半数維持を念頭に前倒しした選挙での過半数割れは責任を回避する事は出来ません。この為、既に野党労働党のコービン党首はメイ首相が求心力を失っているとして辞任を要求しています。2016年のEU離脱の可否を問う国民投票の結果、保守党でEU残留派のデーヴィッドキャメロン首相が辞意を表明し実施された臨時保守党党首選を経てメイ首相が就任しました。
保守党は再度首班選挙を行う必要が生じるのか。キャメロン首相の後任を選んだ2016年の保守党党首選ではテリーザメイ内務大臣、アンドレアレッドサムエネルギー大臣、マイケルゴーヴ 法務大臣、スティーブンクラブ 雇用年金大臣、リアムフォックス元国防大臣が候補者となりました。また、保守党のEU離脱論を先導したボリスジョンソン前ロンドン市長は立候補していませんが、外務大臣に指名されEU離脱交渉に当りました。仮に再度保守党党首選を行う場合は、この顔ぶれが再度立候補するのかもしれません。
ハードブレクジットですが、今回の過半数割れを以て確実に言える事はメイ首相が主導し、保守党部内でも賛否両論があるハードブレクジットについて、強行する事は極めて難しくなった、という事です。議会での多数派を獲得できませんでしたし、EU離脱は確定しているものの、離脱後のイギリス経済と欧州との協調関係を維持するソフトブレクジットの論調への支持も依然として大きく、ハードブレクジットの牽引車であるメイ首相には厳しい結果となりました。
イギリスは財政難に在ります。特に経済振興策や社会保障の財政負担が限界を超えた事で、EU離脱の論調原点にも厳しい財政状況の中で、EU域内からの安い労働力の流入やEU規制による競争力の阻害、また、事実とは言い難いのですが分担金の負担、分担金を負担する分の補助金を受けている為に言われるほどの負担ではないのですが、この負担を回避する事で経済の活性化や社会保障の強化等が望まれており、逆にこの離脱論の根拠となったほどの経済的な利点が実際の離脱交渉を開始した際に、実は困難な選択肢であることが精査し判明した事で、離脱論の求心力が決定後に失われています。
北大路機関:はるな くらま
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(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
イギリス下院総選挙2017速報記事です。イギリス保守党が議席数を減らし過半数を割りました、EU離脱交渉本格化前の歴史的出来事です。
イギリス総選挙下院650名、テリーザメイ首相がイギリスのEU離脱交渉の方向性を決めるとして前倒しで実施しましたイギリス議会下院総選挙、日本時間今日の開票の結果が出ました。与党保守党は議席を減らし、過半数を維持できませんでした。ただ、保守党第一党を維持しており、野党第二党も過半数を獲得できたわけではなく、半数議席を握る政党がない“宙吊り議会”という状況となります。イギリス議会は二院制ですが、イギリス上院は終身議員による貴族院で最高裁機能を果たすものであり、下院議会の位置づけは非常に大きいのです。
与党保守党は改選前の330議席を維持できず317議席へと転落しました。最大野党の労働党は改選前229議席から議席数を伸ばし261議席を獲得します。スコットランド民族党は改選前54議席を35議席へと減らしており、自由民主党は改選前9議席を12議席へと伸ばしました。なお、イギリス独立党は改選前0議席ですが選挙後も現在のところ0議席のまま、残り2議席の開票作業が進められています。
EU離脱については、保守党とイギリス独立党が賛成を掲げ、EU離脱反対を掲げるのは労働党と自由民主党及びスコットランド民族党です。結果、保守党が過半数を割り込み、EU離脱を掲げる他の政党が議席を獲得できなかったことから、下院議会ではEU離脱反対派が過半数を維持している事となります。ただ、EU離脱交渉は既に数週間を経て本格化するため、保守党は少数与党として政策ごとに野党と調整するか、EU離脱反対政党と連立与党を組み、イギリスへ有利な通商条約等の締結を念頭とした離脱交渉を進めなければなりません。
メイ首相は第一党を維持できた意義を強調し、第一党としての責務を強調しました。イギリス保守党が維持できた議席数は314議席、下院議席数650議席の過半数は325議席で、過半数に12議席及ばなかったため、今後の議会運営において保守党は野党との連立内閣や妥協などを必要とします。ただ、イギリスは連合王国であり、議会登院を拒否している北アイルランドのシンフェイン党が議席を有している事から、実際の過半数は323議席程度です。しかしそれでも保守党の議席数314議席は足りません。
EU離脱の方針を画定する事が目的として前倒しの総選挙となりました。これはEU離脱を掲げる保守党支持率の高い時期に敢えて前倒し選挙を行う事で、過半数を維持し、この中でもハードブレクジット、通商交渉などでのイギリスへ有利な内容を維持するための長い交渉ではなく、短期間で確実に離脱する事を重視する基盤を確保する事が目的でした。しかし、結果は少数与党に転落する事となり、メイ首相への求心力の低下、そして今月中旬から本格化するEU離脱交渉への影響等が考えられるでしょう。
投票に影響を及ぼした要素の一つがテロ対策です。EU離脱に関する当初の楽観論が大きく外れた事は最大の保守党敗北要員、具体的には労働党への支持が集まった背景と云えますが、併せてメイ首相の内務大臣時代に治安関係予算を削減し警察官などを縮小した事がイギリス国内において三か月間に三度ものテロ事件を許したとの解釈があります。保守党は労働党もテロ対策法案に反対したと抗弁しましたが、警察官の不足によりテロ容疑者の充分な監視体制を維持できなかったとのロンドン警視庁発表が有権者を動かしたのでしょう。
メイ首相は下院議員、枢密顧問官、内務大臣、と保守党の要職を経て第76代イギリス首相に就任しました。第一党を維持したことを強調するメイ首相ですが、過半数維持を念頭に前倒しした選挙での過半数割れは責任を回避する事は出来ません。この為、既に野党労働党のコービン党首はメイ首相が求心力を失っているとして辞任を要求しています。2016年のEU離脱の可否を問う国民投票の結果、保守党でEU残留派のデーヴィッドキャメロン首相が辞意を表明し実施された臨時保守党党首選を経てメイ首相が就任しました。
保守党は再度首班選挙を行う必要が生じるのか。キャメロン首相の後任を選んだ2016年の保守党党首選ではテリーザメイ内務大臣、アンドレアレッドサムエネルギー大臣、マイケルゴーヴ 法務大臣、スティーブンクラブ 雇用年金大臣、リアムフォックス元国防大臣が候補者となりました。また、保守党のEU離脱論を先導したボリスジョンソン前ロンドン市長は立候補していませんが、外務大臣に指名されEU離脱交渉に当りました。仮に再度保守党党首選を行う場合は、この顔ぶれが再度立候補するのかもしれません。
ハードブレクジットですが、今回の過半数割れを以て確実に言える事はメイ首相が主導し、保守党部内でも賛否両論があるハードブレクジットについて、強行する事は極めて難しくなった、という事です。議会での多数派を獲得できませんでしたし、EU離脱は確定しているものの、離脱後のイギリス経済と欧州との協調関係を維持するソフトブレクジットの論調への支持も依然として大きく、ハードブレクジットの牽引車であるメイ首相には厳しい結果となりました。
イギリスは財政難に在ります。特に経済振興策や社会保障の財政負担が限界を超えた事で、EU離脱の論調原点にも厳しい財政状況の中で、EU域内からの安い労働力の流入やEU規制による競争力の阻害、また、事実とは言い難いのですが分担金の負担、分担金を負担する分の補助金を受けている為に言われるほどの負担ではないのですが、この負担を回避する事で経済の活性化や社会保障の強化等が望まれており、逆にこの離脱論の根拠となったほどの経済的な利点が実際の離脱交渉を開始した際に、実は困難な選択肢であることが精査し判明した事で、離脱論の求心力が決定後に失われています。
北大路機関:はるな くらま
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