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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

AH-64D佐賀県神埼市墜落事故:山崎幸二陸上幕僚長が謝罪,回転翼基部欠損脱落の可能性

2018-02-06 20:13:16 | 防衛・安全保障
■AH-64Dは何故墜落したのか
 AH-64D墜落事故から一晩が経ちました。AH-64D乗員の方の冥福を祈りつつ、報道情報等から何故墜落したのか、考えてみたいと思います。

 AH-64D戦闘ヘリコプター墜落事故について、山崎幸二陸上幕僚長は昨夜「民間の住宅などに大変な被害を与えてしまい、被害を受けた住宅のご家族や周辺の住民の皆様に心からおわび申し上げます」と謝罪しました。昨日夕方には陸上幕僚副長を委員長とする事故調査委員会が設置されました。事故から一晩、墜落瞬間の映像等、様々な情報がありました。

 残念ながら乗員2名の殉職が確認されたようです。行方不明であった機長は墜落機の下で発見されたとの事で、当初報道では佐賀県警の情報として乗員2名が心肺停止との報道がありましたが、その後、墜落機は火災に包まれ2040時頃まで消火できませんでした。本日午前中に一部が発見との報道が入りました。住宅地へ墜落事故、原因は何なのでしょう。

 防衛省によれば、事故機は昨日1636時に目達原駐屯地を離陸、整備終了後の試験飛行として福岡県の久留米市と朝倉市上空を経路とする飛行計画でしたが、離陸から7分後の1643時、予防着陸を行うと通信の後、墜落したとの事です。走行中の自動車ドライブレコーダーが事故の映像を捉えており、機体のローター部分が飛散した可能性が指摘されています。

 事故機は飛散部品から2006年に初飛行の二号機のようです。ローターヘッド部分の交換を飛行前に行っており、このローターヘッドは1750時間毎に交換する消耗品で、防衛省によれば、部隊配備後最初のローターヘッド換装を行ったとの事、ローターヘッドはヘリコプターの回転翼を動力部を接合する重要部品で、回転翼が脱落した場合、飛行は出来ません。

 オートローテーションといい、通常ヘリコプターはエンジン系統の故障などエンジン停止に陥った場合でも回転翼が惰性で回転している状況ならば、そのまま高度を低下させて不時着の勝った井出着陸する事が可能です。しかし、ローター部分が欠損し急停止した場合や、ローター部分が失われた場合、回転翼機から翼が捥がれた状況、完全に操縦不能です。

 AH-64Dの墜落映像から回転翼そのものが脱落した可能性があり、ローターヘッドを交換後の飛行試験中に離陸7分後に墜落した、単純に結び付ける事は出来ませんが、1750時間で交換を行う部品を運用開始以来12年間を経て、耐用期限に応じ交換した部品です。事故を受け、政府は安倍総理大臣が事故原因徹底究明を命じ、当面の運用中止を指示しました。

 AH-1Z攻撃ヘリコプター、在沖米軍配備機の相次ぐ予防着陸の後に、陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプターが予防着陸を試みるも墜落した状況ですが、原因の背景にAH-1Zの場合にはエアシーバトル運用への転換、水陸両用作戦の遠距離化に対してAH-1Zの性能が対応出来ず無理を通した結果の可能性を以前指摘しましたが、AH-64Dの場合はどうでしょう。

 水陸機動団の新編と共に陸上自衛隊はV-22可動翼機17機の導入を開始します。冷戦時代から96機が配備されたAH-1S対戦車ヘリコプターは老朽化が進むと共に、元々は戦域外縁に野飛行場を設置し運用する機体であり、遠距離打撃力を期した機種ではありません。すると、戦闘行動半径の大きな機種は13機のみ製造のAH-64D一択となってしまう訳です。

 必要であれば補正予算によりAH-64Eを調達する事となるのでしょう。陸上自衛隊のAH-64Dは日本特別仕様の性能強化型で、アメリカ陸軍や各国が採用しているAH-64Dには無い、空対空戦闘能力、そしてFLIR高精度赤外線暗視装置アローヘッドを搭載している。これは日本のAH-64D採用時期が遅く、最新器材を搭載した准改良型となったためのもの。

 AH-64EはAH-64Dの改良型で、日本仕様と同じく空対空戦闘能力を有しており、基本的にAH-64Dからの改修も可能です。アメリカ陸軍からAH-64D中古機を取得するという選択肢もあり得ますが、空対空戦闘能力の付与やアローヘッド追加改修を行う費用を考えれば、無理に中古機を改造するよりもAH-64Eを取得する事の方が現実的と云えましょう。

 しかし、前回から繰り返す通り、戦闘ヘリコプターは96機のAH-1Sを13機のAH-64Dにより置き換えている状況、恰も団塊世代大量退職時の企業が若手採用を絞り過ぎ、事業継続へ難渋している状況と合致します。無理を重ねれば半年や一年は押し通せる事でしょうが、確実に不具合の代償は表面化し、問題の本質が解決されるまで傾向として続きます。

 ローターヘッド部の換装直後の事故ではあり、喫緊の課題は取り付け方式の問題か、製品品質の問題か、再飛行させるための検証が重要となります。しかし、機数そのものの縮小は、教育体系の縮小や防衛産業が製造する維持部品の継続調達へも影響を及ぼします。製品と教育を確実に行うには、最小限の規模が必要であり、原因究明とは表だけの対応策であっては、なりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (7)
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