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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

フランス徴兵制再開と日本徴兵制再論【3】陸軍専門旅団化と高度技術と体力の要求

2018-02-15 20:03:48 | 国際・政治
■軍事的要求社会的要求の不一致
 フランスの徴兵制再開、徴兵期間一ヶ月というマクロン大統領の新制度は少なくとも軍事合理性からは外れています、日本にも徴兵制が考えられるかと問われた際に軍事的合理性からは無い、と言い切れます。

 フランス軍は現在、28000名規模2個師団を基幹とする陸軍編成となっています、一昔は自衛隊師団と同程度の小型師団でしたが再編に再編を経て。第1機甲師団と第3機甲師団で、第1機甲師団は機甲旅団と海兵軽機甲旅団と山岳旅団と国際旅団に直轄部隊、第3機甲師団は機甲旅団に軽機甲旅団と落下傘旅団に直轄部隊、ほかには第4航空旅団や特殊作戦旅団等専門色の強い部隊が主体で一朝一夕に訓練は出来ません。

 マクロン大統領の公約なので実施する、という様式であり陸軍は専門職要員を欲しているのに短期要員のみ充足する、大統領はもう一つの公約で財政再建を掲げ国防費を縮減した、即ち陸軍兵力再建は度外視している点がわかります。陸軍が必要とする人材は無いのですが、陸軍には冷戦時代に維持していた大軍時代の施設が残っていて、冷戦後大量に縮小し余る駐屯地、若年失業対策と壮年下士官の失業対策、徴兵制を受け入れる世論が推し進める背景にある。

 徴兵制は軍事的に時代遅れであり、日本も将来にわたりその可能性はない。この視点に対しフランスは徴兵制を再開したぞ、との反論が今回生じ得るのですが、ここまで述べた通り徴兵制は軍事的に時代遅れであっても、社会の団結や若年失業対策という政治的要求から実施される場合にはこの限りではない、といえる。外敵からの防衛という軍隊の抑止力という観点からではなく社会の団結という通常は教育と社会の役割を軍隊が押し付けられたかたち。では、視点を我が国に転じた場合は。

 日本の場合は駐屯地と演習場に余裕がありません、第二次大戦直後ならば兎も角、かつての帝国陸軍が国内に用意した本土決戦250万兵力の兵舎等は半世紀以上前に売却されている。また、例えば企業などでは大量に採用した場合でも短期間に離職する事は教育期間と費用を空費する事となりますので敬遠されますが、軍事機構についても全く同じです。日本で徴兵制を行うには駐屯地と演習場を増やした上で、徴兵要員に渡す装備と教育部隊を増強せねばなりませんが、その余裕はない。

 自衛隊は基本的に徴兵制へは距離を置く姿勢です。最新装備を基本とする装備体系に短期間で養成される人員は対応できず、という理由があります。歩兵部隊に当たる普通科部隊は昔ならば小銃さえ操作できれば班長さんに従っていればよかったのですが、近年は戦闘防弾チョッキはじめ装備の重量が増大し、機械化され車両整備の訓練、通信機器の普及も進み管理する装備が増えている。一見旧式の74式戦車も広帯域無線機の採用により電子化が大きく進みましたし、後継で数年内に74式戦車を全て置き換える16式機動戦闘車や10式戦車は電子装置の塊、といわれ自隊整備さえ難しい程です。

 予備自衛官補制度、未経験者を駐屯地雑務要員として有期任用する場合でさえ、三年間で50日間の訓練を分割して行い、この50日間でさえ短過ぎる為、体力錬成は三年間を各自が最低で自衛隊体力検定五級程度、二分間腕立伏せ25回以上腹筋33回以上、懸垂3回以上、ソフトボール投36m以上、3000m持久走16分以内、幅跳び3.3m、錬成せねばならない。後方支援部隊ならば短期間の訓練でも錬成可能、という考えは素人同然で、自衛隊では衛生職域や車両整備職域等の整備要員こそ高い専門知識が求められ、義務教育で看護士資格や車両整備士や測量士の資格を全員が採る時代でも来なければ、簡単な教育だけで対応できるものではない。

 普通科隊員のような第一線での近接戦闘を担う戦闘職種では自衛隊体力検定一級、二分間で腕立伏せ82回と腹筋80回以上、懸垂17回以上、ソフトボール投擲60m以上、3000m持久走10分38秒以内、幅跳び5.1m以上、が望ましい。国土の七割が山間部である我が国で火砲の射程外にあたる40km先から攻撃機動を行う際には、この程度が求められる。頑張れば出来そうな数字とは言われますが、全部できなければ一級とは認められません。

 それでも全く徴兵制の必要性は無いか、と問われたならば、世論が徴兵制を支持する場合に徴兵制を掲げる政党が与党となった場合にはあります、そして徴兵制を支持せざるを得ない程の緊迫した状況であれば可能性皆無とは言えません。様々な可能性の中、現在可能性が高いのは短期間で限定された地域を占領する限定戦争の脅威度であり、従来型の無条件降伏を迫るような戦争は非常に稀有な可能性しかありません。ロシア軍が北海道を占領し本州へ圧力を、呼号して中国軍も九州を占領、という可能性は日米安保下では低い。

 しかし、自衛隊に全く人数が不要な状況が続くのか、と問われますと、その上で国民が徴兵制を掲げる政党を支持せざるを得ない状況となる訳ですが、万一あり得るとしたならば犠牲者32万という南海トラフ地震が発生し、続いて東海地震や首都直下型地震の兆候が連続すると共に富士山や阿蘇山等が火山爆発地数7規模の噴火兆候を見せ、自衛隊でなくとも消防団や水防団を超える全国規模の数十万という民間防衛組織が必要となった場合、SF小説の日本沈没や死都日本のような状況となり、他に選択肢が無くなり招集、可能性はあるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (3)
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