■■■防衛フォーラム■■■
陸上自衛隊へ導入が本格化する19式装輪自走榴弾砲、そこで今回は世界における装輪自走榴弾砲の最新動向を纏めてみました。
イスラエルのエルビットシステムズ社はドイツのラインメタル社とともにL-52装輪自走砲の実弾射撃試験を実施しました。このL-52装輪自走砲は10輪駆動の極めて大型の輸送車両を転用しており、自動装てん装置など火砲基部はコンテナ型の戦闘室を配置、トラックに榴弾砲を乗せただけの自走榴弾砲よりも一歩進んだ先進的な設計を採用します。
L-52装輪自走砲、この名の通りこの試作自走榴弾砲が搭載しているのは52口径155mm榴弾砲です、これをA1型と位置づけていますが、しかしエルビットシステムズ社とラインメタル社では砲身を延伸させたA2型のL-60装輪自走榴弾砲を計画しており、搭載される60口径155mm榴弾砲では射程83㎞という極めて長い打撃力を想定しているとのこと。
L-52装輪自走砲は、しかし試作段階というよりも実証段階のシステムであり、この為に射撃に際しては巨大な駐鍬四基で車体部分を安定化させるなど、通常の自走榴弾砲よりも射撃準備に時間を要します、射程が大きいことから敵砲兵による対砲兵戦を想定していないのか、将来的に射撃準備に改善の余地があるのかについては明らかにされていません。
■イギリスがアーチャー導入
自動装填装置を備えた巨大な装輪自走榴弾砲であるアーチャーはこれこそ国産ではなく自衛隊が導入すべき装備だと考えていたものでした。
イギリス陸軍はスウェーデンよりアーチャー自走榴弾砲14門を緊急取得することとなりました。イギリスはこれに先立ち32門ものAS-90自走榴弾砲を供与、4月にイギリス国防省がイギリス陸軍のAS-90自走榴弾砲ウクライナ供与を実行した後に顕在化したイギリス陸軍砲兵装備不足を受けての緊急措置であり、暫定的な代替装備との位置づけ。
アーチャー自走榴弾砲は52口径FH-77榴弾砲をボルボ社製装輪車両に搭載したもので、車体部分は高度に装甲化されているとともに不整地での運用を念頭とした建機車両技術を応用したため路外機能が高く、また道路上の戦略機動性も相応に確保されています。また砲塔は完全自動化されAS-90自走榴弾砲よりも四割少ない人員で運用可能という。
AS-90自走榴弾砲はかねてより後継装備の取得が検討されていましたが、それ以前にイギリス陸軍の砲兵へ大きなギャップが生じており、導入決定から一年以内に装備できる選択肢としてアーチャーが選定されたとのこと。イギリス陸軍によれば遅くとも2024年4月までにイギリス陸軍での運用を開始できる条件としてアーチャーが選ばれました。
■ボフダナ装輪自走榴弾砲
カエサル自走榴弾砲により侵攻したロシア軍へ痛撃を加えたウクライナでは以前から開発が開始されていた国産自走砲が登場します。
ウクライナ陸軍は新型のボフダナ装輪自走榴弾砲の受領をまもなく開始します。ボフダナ自走榴弾砲は正式名称2S22ボフダナ、ウクライナ軍が開発しているトラック式自走榴弾砲です。2022年のロシア軍侵攻以来ウクライナ軍はフランスから供与を受けたカエサル自走榴弾砲を運用し、大きな戦果を挙げたと発表していますが、これと同じトラック式だ。
ボフダナ自走榴弾砲、その開発はロシア軍侵攻開始前に遡るとのことで、ロシア軍侵攻当時、ハリコフ近郊において評価試験中であったものが有事の危険にさらされることとなり、当初ウクライナ国防省はロシア軍による鹵獲を回避すべく破壊を命じましたが、開発責任者たちは新型自走砲破壊を拒否し脱出を選択、幸いキエフ近郊まで転進成功したという。
2S22ボフダナ、トラック式自走砲でウクライナ製KrAZ-6322トラックを基に装甲キャビンと20発の弾庫と155mm榴弾砲を搭載、射程は通常榴弾40㎞でRAP弾では50㎞とのこと。ウクライナ軍はフランスから供与されたカエサル自走榴弾砲を見事に使いこなし世界を驚かせましたが、その背景にはこの種の国産砲を研究した事が寄与したのでしょう。
■コロンビア次期自走砲
ウクライナでの活躍以降評価を上げているフランスのカエサル自走榴弾砲ですがコロンビアでは興味深い事例が。
コロンビア国防省は次期自走榴弾砲についてカエサル自走榴弾砲を撤回しATMOS自走榴弾砲を再選定しました。コロンビア軍は国内の麻薬カルテルとの戦いにおいて火力拠点などを急襲するべく自走榴弾砲を必要としていました。この選定では当初、フランスのネクスター社製カエサル自走榴弾砲が選定されましたが、最終契約に至らず撤回されている。
ATMOS自走榴弾砲はイスラエルのエルビットシステムズ社製、コロンビア陸軍は18門を調達する計画です。他方、カエサル自走榴弾砲の撤回について、コロンビア政府は契約金額が1億1400万ドルになるとの通知を受け、当初見積もりを上回ったことが不採用の理由としています。カエサルとATMOSは火砲としては共に52口径155㎜砲を搭載している。
ATMOS自走榴弾砲はエルビットシステムズ社が以前のソルタム社時代に設計した自走榴弾砲で、ソルタム社製155㎜榴弾砲をチェコのタトラ社製タトラ-T815VVNトラックに搭載しています。自走砲で麻薬カルテルとの戦いは大袈裟に思われるかもしれませんが、このほかに2500名の兵員を有するゲリラ組織FARCコロンビア革命軍も存在しています。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
陸上自衛隊へ導入が本格化する19式装輪自走榴弾砲、そこで今回は世界における装輪自走榴弾砲の最新動向を纏めてみました。
イスラエルのエルビットシステムズ社はドイツのラインメタル社とともにL-52装輪自走砲の実弾射撃試験を実施しました。このL-52装輪自走砲は10輪駆動の極めて大型の輸送車両を転用しており、自動装てん装置など火砲基部はコンテナ型の戦闘室を配置、トラックに榴弾砲を乗せただけの自走榴弾砲よりも一歩進んだ先進的な設計を採用します。
L-52装輪自走砲、この名の通りこの試作自走榴弾砲が搭載しているのは52口径155mm榴弾砲です、これをA1型と位置づけていますが、しかしエルビットシステムズ社とラインメタル社では砲身を延伸させたA2型のL-60装輪自走榴弾砲を計画しており、搭載される60口径155mm榴弾砲では射程83㎞という極めて長い打撃力を想定しているとのこと。
L-52装輪自走砲は、しかし試作段階というよりも実証段階のシステムであり、この為に射撃に際しては巨大な駐鍬四基で車体部分を安定化させるなど、通常の自走榴弾砲よりも射撃準備に時間を要します、射程が大きいことから敵砲兵による対砲兵戦を想定していないのか、将来的に射撃準備に改善の余地があるのかについては明らかにされていません。
■イギリスがアーチャー導入
自動装填装置を備えた巨大な装輪自走榴弾砲であるアーチャーはこれこそ国産ではなく自衛隊が導入すべき装備だと考えていたものでした。
イギリス陸軍はスウェーデンよりアーチャー自走榴弾砲14門を緊急取得することとなりました。イギリスはこれに先立ち32門ものAS-90自走榴弾砲を供与、4月にイギリス国防省がイギリス陸軍のAS-90自走榴弾砲ウクライナ供与を実行した後に顕在化したイギリス陸軍砲兵装備不足を受けての緊急措置であり、暫定的な代替装備との位置づけ。
アーチャー自走榴弾砲は52口径FH-77榴弾砲をボルボ社製装輪車両に搭載したもので、車体部分は高度に装甲化されているとともに不整地での運用を念頭とした建機車両技術を応用したため路外機能が高く、また道路上の戦略機動性も相応に確保されています。また砲塔は完全自動化されAS-90自走榴弾砲よりも四割少ない人員で運用可能という。
AS-90自走榴弾砲はかねてより後継装備の取得が検討されていましたが、それ以前にイギリス陸軍の砲兵へ大きなギャップが生じており、導入決定から一年以内に装備できる選択肢としてアーチャーが選定されたとのこと。イギリス陸軍によれば遅くとも2024年4月までにイギリス陸軍での運用を開始できる条件としてアーチャーが選ばれました。
■ボフダナ装輪自走榴弾砲
カエサル自走榴弾砲により侵攻したロシア軍へ痛撃を加えたウクライナでは以前から開発が開始されていた国産自走砲が登場します。
ウクライナ陸軍は新型のボフダナ装輪自走榴弾砲の受領をまもなく開始します。ボフダナ自走榴弾砲は正式名称2S22ボフダナ、ウクライナ軍が開発しているトラック式自走榴弾砲です。2022年のロシア軍侵攻以来ウクライナ軍はフランスから供与を受けたカエサル自走榴弾砲を運用し、大きな戦果を挙げたと発表していますが、これと同じトラック式だ。
ボフダナ自走榴弾砲、その開発はロシア軍侵攻開始前に遡るとのことで、ロシア軍侵攻当時、ハリコフ近郊において評価試験中であったものが有事の危険にさらされることとなり、当初ウクライナ国防省はロシア軍による鹵獲を回避すべく破壊を命じましたが、開発責任者たちは新型自走砲破壊を拒否し脱出を選択、幸いキエフ近郊まで転進成功したという。
2S22ボフダナ、トラック式自走砲でウクライナ製KrAZ-6322トラックを基に装甲キャビンと20発の弾庫と155mm榴弾砲を搭載、射程は通常榴弾40㎞でRAP弾では50㎞とのこと。ウクライナ軍はフランスから供与されたカエサル自走榴弾砲を見事に使いこなし世界を驚かせましたが、その背景にはこの種の国産砲を研究した事が寄与したのでしょう。
■コロンビア次期自走砲
ウクライナでの活躍以降評価を上げているフランスのカエサル自走榴弾砲ですがコロンビアでは興味深い事例が。
コロンビア国防省は次期自走榴弾砲についてカエサル自走榴弾砲を撤回しATMOS自走榴弾砲を再選定しました。コロンビア軍は国内の麻薬カルテルとの戦いにおいて火力拠点などを急襲するべく自走榴弾砲を必要としていました。この選定では当初、フランスのネクスター社製カエサル自走榴弾砲が選定されましたが、最終契約に至らず撤回されている。
ATMOS自走榴弾砲はイスラエルのエルビットシステムズ社製、コロンビア陸軍は18門を調達する計画です。他方、カエサル自走榴弾砲の撤回について、コロンビア政府は契約金額が1億1400万ドルになるとの通知を受け、当初見積もりを上回ったことが不採用の理由としています。カエサルとATMOSは火砲としては共に52口径155㎜砲を搭載している。
ATMOS自走榴弾砲はエルビットシステムズ社が以前のソルタム社時代に設計した自走榴弾砲で、ソルタム社製155㎜榴弾砲をチェコのタトラ社製タトラ-T815VVNトラックに搭載しています。自走砲で麻薬カルテルとの戦いは大袈裟に思われるかもしれませんが、このほかに2500名の兵員を有するゲリラ組織FARCコロンビア革命軍も存在しています。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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