北大路機関

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大水害時代にLAV-25とBvS.10が必要だ【1】米海兵隊軽装甲偵察車輛と英海兵隊全地形車両

2020-07-07 20:07:38 | 防災・災害派遣
■大水害の頻発時代と装甲車
 九州北部豪雨に西日本豪雨と鬼怒川水害や台風信濃川水害、近年高い頻度で発生する巨大水害を前に自衛隊装備というものを改めて考える時代を迎えているよう思います。

 LAV-25軽装甲車とBvS10全地形車両、陸上自衛隊に必要な装甲車両というものはこの二車種なのかな、こう考えることが多いのです、装甲車として優秀ですが特に水害の場合において。LAV-25軽装甲車はアメリカ海兵隊が海兵軽装甲偵察部隊に大量配備している装甲車で、BvS.10全地形車両はイギリス海兵隊が大量配備している装軌式の装甲車両です。

 水害を考えますと、孤立地域からの人命救助、ここが自衛隊へ最初に災害派遣において要請される項目です。考えてみますと、浸水地域、そもそも消防車両などの特殊車両でもスノーケルや強制排気弁をそなえた車両は少数であり、渡渉できる程度の水深であっても、ひとたび市街地が水没してしまいますと人も車も、急に身動きがとれなくなる現実がある。

 自衛隊の任務は主任務が防衛であり、災害派遣は副次的な任務だ、との批判はあるのかもしれませんが、災害が発生しない年度は残念ながら自衛隊創設以来ありません、したがって、副次的任務であっても頻度としては防衛出動より遙かに頻度が高いのです。そして水陸両用性能、極端な性能でない限り、この二装備は防衛出動においても寄与するでしょう。

 AAV-7両用強襲車。極端な水陸両用性能というものはこちらです、水陸両用性能はもの凄い、東日本大震災や伊勢湾台風規模の港湾施設や沿岸部が壊滅する被害において大きな威力を発揮します、そして水陸機動団を筆頭に上陸作戦では必須です、しかし、河川氾濫規模、毎年発生する程度の水害ですとAAV-7は任務に対し少々大きすぎるのかもしれません。

 AAV-7は自走して九州を縦断する性能はありますが車体が大きく貨物列車にも搭載できませんしC-130H輸送機にも搭載できません、ですから被災地に運び込むにも労力が大きくなるのです、なにより道路運送車両法の車両限界を大きく超えています、一週間十日間の単位で全く水が引かないような長期浸水であれば別ですがAAV-7は運ぶ労力が大きすぎる。

 AAV-7はもうひとつ、広く配備するには専門的過ぎる装備で、実際、水陸機動団創設前、西部方面普通科連隊では自前での運用は不可能であるとしてAAV-7は第4戦車大隊へ配備していたほどです。しかし、LAV-25やBvS.10であれば高機動車ほどではありませんが、96式装輪装甲車や10式雪上車の延長として普通科連隊でなんとか整備しうるものです。

 AAV-7の前型であるLTVP-5はフィリピン海兵隊がマニラ近郊の大規模水害に投入しています、しかし水没車両の中に心配停止の要救助者が残っている懸念もありますので、AAV-7を水害被災地へ展開させるには、そのための輸送リソースと整備リソースの捻出へ留意が必要、ですからAAV-7を全国の普通科連隊などに広く薄く配備しろ、とは主張しません。

 軽装甲機動車や96式装輪装甲車、優れた装甲車ではあると思います、もっとも優れている点は安価である点でしょうか、陸上自衛隊の予算体系は地対空ミサイルとヘリコプターが優先され、結果的に装甲車両の予算は後回しとなります、89式装甲戦闘車という優秀な装甲車両がありましたが、予算優先度が低く年間数両しか調達することができませんでした。

 96式装輪装甲車は操行装置の複雑さや、それほど高くない防御力などが疑問視されているのですが、一両あたり9000万円まで費用を抑えたからこそ、年間数十両を辛うじて調達できたわけでして、優秀な装甲車であっても取得費用が高く数がそろわないのであれば意味がありません。もっと予算を、といっても優先度が低いならば結果は同じといえるのです。

 LAV-25軽装甲車とBvS.10全地形車両を、敢えて必要だ、と勧めるのはこの二車種が浸水地域でも自由に走行できるためなのですね、96式装輪装甲車や軽装甲機動車は水上を進むことはできません。96式装輪装甲車は密閉構造ですので浮くには浮くはずですが、水上航行を想定していないのです。これは60式装甲車と73式装甲車の関係にもにているのかも。

 LAV-25、スクリューにより9.6km/hでの浮行が可能です、波切り板が装着されていますので簡単には水没しませんし、沿岸部であれば波浪さえなければ海上からの揚陸にも対応するほど。25mm機関砲を搭載していますので、敵装甲戦闘車と遭遇した際には自衛戦闘が可能ですし、車内には6名の兵員も乗車できる、軽装甲車といいつつも火力は強力です。

 BvS.10全地形車両は、間接部を中央に有して急斜面などでも機動力を発揮する車両で、5km/hと非常に限られた速度ではあるのですが水上を進むことができます、履帯で水面を掻いて進みます。BvS.10はBV-206全地形車の装甲型で、小銃弾や砲弾片程度には防御力を有します、勿論、装甲戦闘車のように機関砲弾や対戦車火器には耐えられませんが、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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7 コメント

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Unknown (軍事オタク)
2020-07-08 12:00:44
同感です。
海上走行も可能な装輪タイプの装甲車を広く配備すべきだと思う。
日本は海兵隊化をかなり進めるべきだ。
陸上兵力の2から3割程度を海兵隊化してもいいと思う。
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Unknown (Unknown)
2020-07-08 16:25:55
大水害とおっしゃるが、温暖化でスコールかした、ただの雨という。

そこには、シナ南部で豪雨があるのに、日本で雨量予測もされず警戒が出来ない官僚体制があるという。温暖化という割に、雨量は減っており、ダムの運用手法も、進まない雨量予測の不備で運用の改善も進まず、中共のような異常な放流がされてるとか。

防衛費や国土交通予算とは別に、温暖化で20兆円も無駄な方面に流れてるという。温暖化予算を、河川の整備に廻せば、一年の費用で九州の河川整備が出来るらしい。最低でも治水手法が時代遅れで、河川の川底の砂利取るだけで被害は減ると。

まあ、温暖化で20兆円も積むのであれば、自衛隊費の緊急対応費や救援費増額も望ましい。
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装甲は不要では?: (ドナルド)
2020-07-08 22:36:10
水害に備えるなら、装甲は百害あって一利なし。少なくとも水害対策を考えるのなら、装甲車は全く関係ないと思います。重たい装甲車が、たとえ(ゴム)キャタピラを履いていても、泥だらけの被災地で何ができるのか?橋が落ち路面もドロドロの時に重要なのか、軽くて接地荷重の低い車両、チヌークやUH60で輸送できるような車両ではないのでしょうか?

BvS10全地形車両は良いと思いますが、これもまずは非装甲型のものの方が、数倍使いやすいでしょう(水害では)。

LAV25など水害で使い物になるとは思えません。浮航能力は低く、プロペラに紐が絡まればあっという間に動けなくなり、2重遭難。しかも装甲のせいで重たくて、回収が大変です。

もっと「普通のもの」をしっかり整備すべきです。

・高機動車のような汎用ソフトスキン車両 --> 軽くて馬力があります。接地圧を下げるためなら、より軽量なものや、6輪のものを整備しても良い。
・BvS10全地形車両の非装甲版 --> 有事には、海岸から前線への兵站を支える唯一の手段となるでしょう。
・V22用に調達しようとしているATVも、こうした災害救助には最適でしょう。

#それをいえば、各自治体が、ジムニーやATV、それこそ高機動車のような車両を、平時から整備すれば良いはずです。平時から支えることが重要ですから、廃品回収や古紙回収に、高機動車が巡回するとか、限界集落の訪問部隊がジムニーを使うとか、いろいろあるかと思います。

津波でも洪水でも、水の中はゴミや紐、木材や金属片だらけです。地面も軟弱でしょう。少なくとも「不幸能力を持つ装輪装甲車」など全く出番はないと思います。(もちろん、普通の兵員輸送車として使うのは結構ですが、その使い勝手は、高機動車に大きく劣るでしょう)
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Unknown (Unknown)
2020-07-09 12:48:15
自衛隊は、国を守る防波堤であるが、全国の堤防破壊の救助隊ではないんだが(笑)

もっと、県や地方に費用負担と、県兵でも展開したら地方雇用にもいいかも。まあ、県らの公務員や、農村のリーダ的指導者に期間限定の自衛隊研修は、国防や地方の政治が活性化していくと思う。

現在、お城の堀掃除までやらせてるような地方行政。現場仕事も出来ない行政体制は、如何なものかな。
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Unknown (ねこまんま)
2020-07-09 21:19:50
水害時の川は大木や大岩が流れるので装甲車でも厳しいです。装甲車よりも、双腕重機や小型ユンボ等が良いかと思います。近未来はドローンで救援物資の輸送やパワードスーツにより物資をより多く運べる事に期待したいです。

水陸両用車については、島国で陸地だけの戦いは難しいです。警察の組織に水上警察があるように陸自にも。そんな意味では水陸両用車は必要だと思います。
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Unknown (Discotheque)
2020-07-12 14:40:47
装甲車も良いですけど、懐かしいSUPACAT ATMPなんてどうでしょうか。浮航能力もあるようですし、輸送部隊に数量ずつ配備しては。平時にも役に立ちそうな気がします。
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Unknown (軍事オタク)
2020-07-17 11:34:33
非装甲の水陸両用車も当然大量配備するべきだと思います。
ジムニーや高機動車等を消防や警察や自治体に配備すべきですね。
ただ、例えば海上から瓦礫や浮遊物の衝撃にも耐えられるAAV7や開発中のサンゴも踏み越えていける国産水陸両用装甲車等があれば押しのけて上陸できるでしょう。
確かに重いし車幅があるが、頑丈でキャタピラで踏み越えていけるでしょう。
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