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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南九州豪雨/熊本鹿児島豪雨災害-球磨川全域で氾濫発生,被害全容不明のまま次の降雨帯予報

2020-07-04 20:00:39 | 防災・災害派遣
■熊本-鹿児島に大雨特別警報
 南九州に昨夜から未明にかけ記録的豪雨が降り注ぎ、気象庁は未明に大雨特別警報を発令、現在は警報に切り替えられましたが河川氾濫が発生しています。

 九州熊本豪雨災害。球磨川が少なくとも七か所で氾濫し全域20か所において更なる氾濫の恐れがあるという。思い起こせば本日は七月初旬でして例年であれば富士学校祭が実施される季節です、そして思い出すのは2018年の富士学校祭前日に沼津にて第14旅団が上陸訓練を実施していましたが、西日本豪雨被害が四国に波及、縮小訓練が中止されています。

 西日本豪雨はその二日前、ロシア海軍ウダロイ級駆逐艦が舞鶴親善訪問の時点から小浜線全線運休となる等の不利はじめでして、実に二日間に渡り降りつづけました。九州熊本豪雨は現在小康状態となっていますが、今夜から再び降水帯が九州南部に差し掛かるとの予報が気象庁から示され、球磨川周辺では一時晴れ間が戻ったようですが予断を許しません。

 西日本豪雨災害から思い出すのは、止み間の小康状態があるのですが、次の降雨により晴れ間の最中に増水が本格化し、避難が必要だ、と考えた時にはボートかヘリコプターが無ければ避難できない状況になる、という事でしょうか。実際、西日本豪雨は、大変な豪雨だ、という事が認識された後数日間降雨が続きました、あの気象図と今の九州に共通点が。

 球磨川氾濫は上流、熊本県球磨村の渡の観測所では3日深夜から増水が始り4日0000時時点の水位が3m程度であったのが0300時に8mまで上がり、そのまま水位が0600時には11.8mまで上昇、深夜から早朝までの数時間で二階建ての屋根までの高さに等しい急激な水位の上昇が始り、そして早朝からこれらの水が下流域の水位上昇を引き起こしたという。

 熊本県の雨量は豪雨を引き起こす雲が連続する線状降水帯が掲載された為、、12時間雨量で、水俣市で415mm、湯前町の横谷で411.5mm、山江村で406.5mm、球磨村で396.5mm、あさぎり町で389mm、芦北町田浦で386.5mm、天草市牛深で385mm、多良木町で344.5mm、人吉市で340.5mmとのことで、いずれも12時間雨量としては過去最高となったとのこと。

 自衛隊への災害派遣要請は今朝0500時頃に球磨川周辺の孤立地域救助へ熊本県から防衛省へ出されていまして、陸上自衛隊はUH-60JA多用途ヘリコプターを投入し浸水地域の孤立者救助に当たっています。九州には海上自衛隊大村航空基地や鹿屋航空基地、航空自衛隊の新田原救難隊や芦屋救難隊等、ヘリコプターに余裕があり、人命救助に当たっています。

 西部方面隊は現在、かなりの人員と航空機や装備を有している、災害派遣を考える場合、これは僥倖といえるでしょう。UH-60JA多用途ヘリコプターが配備されていますし、なにより、AAV-7両用強襲車、自衛隊では水陸両用車と云われていますが、自衛隊が保有する全てのAAV-7が九州に配備されており、長期浸水の孤立救助の際には投入も可能でしょう。

 大雨特別警報解除。しかし概して河川増水は特別警報解除の後に氾濫へ至るものでして、気象警報に“特別警報”制度の運用が開始されて以降、大雨特別警報解除後に安心したところで河川氾濫が始り、避難所や避難先から戻った住民が水害に見舞われる、という事例があります。これは特別警報下での降り注いだ雨滴が河川に流れ込む時間差が原因という。

 洪水特別警報が必要ではないのか。大雨洪水警報は気象警報として運用されており、大雨特別警報という気象警報制度はありますが、洪水警報という単体の気象警報は存在しません、しかし上掲の通り大雨特別警報を引き起こす総雨量が河川氾濫に繋がるには時間差がありますので、新しく“洪水特別警報”という制度を新たに設定する必要はないでしょうか。

 九州熊本豪雨災害。予報を見る限りでは再度雨量が強くなる懸念がありまして、西日本豪雨災害のようにすでに増水や氾濫が発生している地域へ更に雨が降り注ぐことで長期化する懸念があります。そして大きな課題は、固定電話や携帯電話の通信障害等も含め、現在のところ被害範囲が大きく被害全容が把握できていない地域がある、という事でしょうか。

 今回の災害、いや被害全容が判明しないと共に次の降雨帯が迫っている状況では現在進行形の災害といえるのですけれども、災害対処を考える上で長年問題となってきた命題が、特に年々悪化している問題が臨界点を超えた部分まで、幾つか露呈しているように思います。次の災害に備えるという安易な表現ではありませんが、考えさせられる点を幾つも。

 RF-4戦術偵察機の除籍。過去に大規模災害が発生した際には、百里基地の偵察航空隊第501飛行隊のRF-4が被災地まで急速に展開し、写真偵察を実施していました。RF-4は立体写真撮影能力や広角から望遠まで様々な偵察器材を駆使し、また夜間偵察能力も有しています。しかし老朽化が進み、後継機開発が未経験企業により失敗、現在偵察機はありません。

 RQ-4グローバルホーク無人偵察機。実はRF-4偵察機の代替として高度1万9000mの航空から広範囲を情報収集し、リアルタイムで災害対策本部などに画像情報を提供する高性能無人機が導入される事となっていますが、まだ配備に至っていません。もっともRQ-4は濃密な雲の真下を見通すには限界がありまして、大規模災害の偵察機の問題が浮き彫りに。

 航空偵察は現在、陸上自衛隊のスキャンイーグル無人偵察機やFLIR前方赤外線監視装置と光学情報収集装置を有するUH-60JA多用途ヘリコプター、方面隊が装備していますUH-1J多用途ヘリコプター搭載の映像伝送装置、海上自衛隊P-1哨戒機のアイボールセンサー、かなり無理はありますが航空自衛隊F-15J戦闘機等の複座機に一眼レフを持ち込む、など。

 F-2戦闘機用偵察ポッド、こうしたものが必要ではないか。SHARP分割式戦術航空偵察ポッドシステム、アメリカ海軍ではF/A-18F戦闘攻撃機に搭載し運用しています。可視光と赤外線のカメラ六基と合成開口レーダーを一つのポッドに搭載したもので、空母航空団司令部などに連接するJSIPSデータリンクステーションにリアルタイムで情報伝送します。

 SHARP分割式戦術航空偵察ポッドシステム、こうしたものが必要だ、と考えるのは現在情報収集の手段は政府情報収集衛星はじめいくつか存在しますが、画像情報を必要とする地域を適宜判断するには専門の訓練が必要です。そしてF-2戦闘機の任務に対地攻撃が含まれていますが、現在のままでは戦果確認する手段が不充分、災害派遣以外でも必要といえる装備です。

 RF-15計画としまして、SHARP分割式戦術航空偵察ポッドシステム似たものを東芝が開発受注したのですが戦術偵察を理解せず開発した為に、偵察飛行の際に急激な温度変化でレンズが白濁し写真が撮影出来ないという致命的な問題が発覚し、制式化されませんでした。経験ある三菱電気あたりに開発を依頼する事も無く、偵察機後継が無視され、今日を迎えた。

 中国軍の九州沖縄侵攻脅威が顕在化する現在、不幸中の幸い、というところでしょうか、北熊本駐屯地の第8師団には隷下に第8情報隊が置かれており、この部隊がスキャンイーグル無人偵察機を装備しているほか、2009年奄美豪雨への反省から航空機強化を師団が強く要請した事で、師団の第8飛行隊にはUH-60JA多用途ヘリコプターが装備されています。

 OH-6D観測ヘリコプターの廃止。過去に災害が発生した際には全国の自衛隊飛行隊、26個の飛行隊に薄く広く配備されていたOH-6Dが即座に離陸し、生の情報を収集していましたが、こちらも今年三月までに全廃されました。ただ、スキャンイーグル、一見小型で心細いですが一機当たりの費用はOH-6Dと同程度であり、活用出来れば情報収集に寄与する。

 スキャンイーグル無人偵察機については、投入は難しいでしょう。先日、イージスアショア弾道ミサイル防衛システムが迎撃ミサイルスタンダードSM-3のブースタ部分落下時に確実に安全を確保出来ない事から配備計画が撤回されましたが、スキャンイーグルも墜落リスクは少なからずあり、災害派遣での人命救助よりも安全が優先されるかもしれません。

 無人機。東日本大震災でも被災地を担当する第6師団には携帯式無人機が配備されていたのですが、投入されていません。航空法の手続きや万一の際の墜落を危惧した等、いろいろな視点が挙げられていますが、もちろんリスクはある一方、飛ばさない事で被害把握が遅れるというリスク、減点を恐れる日本型思考が貴重な装備を活用できない懸念があります。

 災害派遣用無人機として、フランス製のANAFIが自衛隊には多数配備されています、こちらはドローン資格を有する隊員が飛行させる、現在の航空法に適合した装備です。恐らくこの装備は今回大量投入されることとなるでしょう。しかし、ANAFIではOH-6のような広範囲の情報収集は流石にできません、市街地でもスキャンイーグルを飛行できる制度と法改正が必要だ。

 V-22可動翼輸送機。もう少し自衛隊のV-22配備が早期に実現していたならば、今回の災害派遣に際してより迅速な孤立地域救助が可能であったかもしれません。こういいますのもアメリカ海兵隊のMV-22可動翼機運用を観ていますと、危険な機体との誤解はあるが台風災害豪雨災害に対しこのMV-22という機種は非常に強い飛行性能を有しているのですね。

 伊豆大島土砂災害。2013年10月16日に台風26号の瀬金により伊豆大島にて大規模な土砂災害が発生し死者36名行方不明者3名という大被害を出しました、あの日は湖西線が運休になった事を覚えているのですが、併せてあの日は滋賀県饗庭野演習場で実施されました、日本国内での日米合同演習において初めてMV-22が投入された日だったのですね。

 台風26号の影響で豪雨により湖西線が止まり、自称地元民の反対デモも湖西線運休で京都駅足止めとなっていたという話を後に聞きまして、かなりの強風と最悪の視界不良ではありましたが、MV-22は二機編隊で岩国航空基地から長躯饗庭野演習場に展開し空中機動訓練を報道公開しています。あの悪天候で飛べる航空機、強烈な印象を叩きつけられました。

 自衛隊のV-22は現在2機が岩国航空基地に搬入され、6日に最初の機体が木更津駐屯地へ展開し、暫定配備が開始される事となっています。V-22は今回の豪雨災害でも充分飛行可能であるとともに、岩国から饗庭野まで飛行し往復した事を考えれば、部隊運用が可能である状態ならば、岩国航空基地から熊本球磨川周辺水害地域まで即座に展開できましょう。

 しかし、なんといいましても留意しなければならないのは現在進行形の災害です。NHK報道によれば既に1名が亡くなり、15名が心肺停止状態、1名が重体で、現在分っているだけでも9名の方が行方不明、しかも、人吉市など広範囲が浸水している地域もある中で次の降雨の予報が出ています。人命を守るための行動が、まさに必要とされている現在です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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