北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

日本造船業は防衛の根幹,LST&LSDを増強せよ【3】作戦輸送に拘らなければ民生技術で可能

2021-01-28 20:20:16 | 防衛・安全保障
■作戦輸送と業務輸送
 日本造船業の現状は発注しなければそのまま産業は縮小し、結果的にではありますが防衛装備品の調達費高騰に跳ね返るという状況です。

 おおすみ型輸送艦は優れた輸送艦です、アメリカのホイットビーアイランド級揚陸艦、イギリスのアルビオン級揚陸艦など、近年はドックを有する揚陸艦の設計は洗練されており、一隻での自己完結能力は高くなっている。しかし、この設計ももとをたどればイギリスが第二次世界大戦中に着想した浮きドックを利用したドック型揚陸艦というものでした。

 現代の洗練された設計のドック型揚陸艦を視ますと、その発想が応急的なものとはとても思えませんし、システムとして洗練されています、そしてその分だけ建造費の高くなっているのですが、それこそ電子戦やミサイル飽和攻撃を掻い潜り、太平洋を渡るとか中東アフリカまで展開する運用だけを基本としないならば、それほど高価なものとはなりません。

 浮きドックの構造を採用した揚陸艦ならば、安価に建造できないか。もちろん作戦輸送は難しいでしょう、電子装備や個艦防空装備を追加し、ステルス設計を行えば自ずと建造費用は増大してゆきます。しかし、韓国がインドネシアへ輸出したドクタースハルソ級やイギリスのベイ級輸送揚陸艦、用途を限れば安価に建造することは不可能ではありません。

 ドック型揚陸艦、大本は代用品、ではないにしても民生品を応用したものでした。浮きドックを揚陸艦に使う。なるほど当時の浮きドック設計者の視点に立てば、そんな無茶な、と思われたのかもしれませんが、ヴェトナム戦争中にフロリダの湿地帯観光用のホバークラフトが軍用と採用された際に設計者がこれは単なる観光用だぞ、と驚いた事を思い出す。

 イギリスは第一次世界大戦中のガリポリ上陸作戦でトルコの陸上要塞を戦い戦艦3隻を撃沈されたうえに肝心の上陸作戦が失敗するという散々な結果に終わっていますが、この際の上陸作戦もお粗末なものでした、小型ボートで浜辺に乗り付ける、幕末に長州藩と関門海峡で戦った際の方式とともに、艀に歩兵を満載して曳船で浜辺まで引く、というもので。

 プッシャーパージ方式、艀を引くのではなく船で押す方式が開発されましたが、とにかく結果は散々であり、このあたりから揚陸艦の研究が始まります。イギリスは航空母艦の設計でもアングルドデッキ構造により発着の同時実施やミラー式着艦表示装置、蒸気カタパルトという現代空母三要素を発明しており、技術的な裾野の広さを実感するものといえる。

 日本。参考までに日本では1930年代から1940年代初頭、世界でもっとも水陸両用作戦技術が開発されていました。上陸用舟艇である大発が開発され、その母艦として陸軍特種船の開発、海軍航空母艦による近接航空支援や駆逐艦の艦砲射撃支援を受けつつ、大発が戦車砲を搭載した装甲艇の護衛と直掩を受けつつ上陸する、既にこの域に向かっていた。

 イギリスは1940年に戦車揚陸艇を開発しましたが、小型すぎ、これをどのように敵前上陸作戦の両用戦部隊集結海域まで進出させるかが課題でした。このため、浮きドック、もともとは最前線に工作艦とともに進出し、艦艇を修理する際に用いる装備、ここに戦車揚陸艇を並べ直前にドックに注水し発進させる方式を研究しました、1940年代にこれをやった。

 浮きドック、基本的にこれは曳航してゆくものですが、イギリスはこの浮きドックを自航させることを思い立ちます、ゆえにドック型揚陸艦という。浮きドックは平底ですが、LST戦車揚陸艦と異なりこのまま上陸接岸するものではありませんので、平底の真下に機関部を設置し吸排気系統は舷側に這わせる事にて、かなりの速力で自航能力を付与できました。

 揚陸艦として。なお、ドックを航行させれば波が立ちますのでドックに波浪が入り込んで折角の戦車揚陸艇が流失してしまいます。このために前半分に船舶構造を追加することとなります、これで波は入り込まない。こうして世界初のドック型揚陸艦はイギリスが着想設計し、アメリカが建造したアシュランド級ドック型は1943年に竣工へたどり着くという。

 アシュランド級ドック型揚陸艦は基準排水量4790t、満載排水量は8700t、毎分83tの注水ポンプによりドック内に張水するのに所要時間90分、排水には150分を要しました。もちろんかなり苦労したものではあった、水を入れすぎて沈没という、なにしろ船舶ではないものを船舶とした無理が港内試験などで判明し、もし外洋ならばあわや全没、なんて事も。

 日本であれば浮きドックの建造技術を応用したドック型揚陸艦を安価に建造できるのではないか、作戦輸送ではなく業務輸送として割り切ったとしてです。日本の場合は揚陸艇母艦である機動揚陸プラットフォームのほうが早そうな気もしますが、過度な高速性能や防空能力などを断念するならば、これらはかなり安価に建造できるようにも、思うのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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