Heufieber (Germ.) (hay fever Eng.) といえば、Heisenbergが若いときにこのHeufieber がひどかったというのは有名である。
彼が量子力学への端緒を開いたのは1925年5月であったが、その直前にとてもひどいHeufieberにかかり、先生のBornに申し出て休暇をとり、療養のため草木がなく岩でごつごつした北海の孤島Helgolandへ出かけた (Helgolandはいつかテレビで見たのでは海岸の岩壁が赤い色をした島だった)。
そこで、Heisenbergは奇妙な代数(それは数学で知られたマトリックスであることをBornが後で発見した)を考え出し、そしてそのときに量子力学のモデルとして用いた非調和振動子のエネルギーが保存することをちゃんと証明できた。それでHeisenbergは真理の一端を確かに掴んだという確信をもった。この辺の話は彼の自伝『部分と全体』(みすず書房)に詳しい。
この創造体験はDysonの自伝『宇宙をかきみだすべきか』(ダイアモンド社)に出ているTomonaga, Schwinger, Feynmanの量子電気力学を統一的に理解できたときのDysonの体験と状況はまったく違うが、その内的な感情と感覚は似ている。
しかし、ここで述べたいのはHeufieberとは何かということである。いつだったかNHKの英語会話の放送を見ていたら(英語だからhay feverと綴るのだろうが)、これを花粉症と訳していた。それで、はっとしてやっとHeufieberが身近なものになったのだが、日本では花粉症は鼻水がしきりにでるが、熱は出ない。
その数年後だったが、入試の監督に駆り出されたときに、同僚のS先生が顔を赤くして花粉症に悩んでいた。
その方は7,8年をアメリカで暮らした方でhay feverについて彼の体験を話してくれた。それはもちろん花粉が原因なのだろうが、40度近い熱が何週間も続いてとても不快なのだという。それでやっとわかった。Heufieberは枯草熱と訳されているが、熱が出るところが特徴のようだ。
Heufieberの枯草熱という訳語を理解できなくて、花粉症という訳語である程度わかったつもりになっていたが、結局元へ戻ったわけである。なんでも実際に生活をしてみないとわからないことがあるものだ。
(2011.4.13付記) ドイツ語ではPollenallergieという語があり、これは文字通り「花粉アレルギー症」である。