ディドローはどういう失態をしたか。いやこれはランスロット・ホグベンの『百万人の数学』上によればの話であって、実話かどうかはわからないが。
ディドローはあるときロシアに招かれて、宮廷に滞在していたときのことである。彼の優雅なおしゃべりに大いにロシアの貴人たちが楽しんだらしい。
ただ、廷臣たちに無神論の虫がついたら大変だと心配した女帝は、当時世界一といわれた数学者オイラーに命じてディドローと公開論争を行わせた。
ディドローはある日、ある数学者が神の存在を証明した、というだけで論争相手の名前も知らされずに論争に招待されたという。
オイラーは廷臣たちの居並ぶ前で、荘重な口調で「(a+b^{n})/m=x、ゆえに神在り、返答せよ」と言って論争を挑んできた。代数はディドローにとっては全く苦手であった。不幸にもそれが落し穴だとは気が付かなかったという。
それで御前を退出し部屋に閉じこもり、旅券を申請してフランスに帰ってしまった、という。
もっとも、この話はランスロット・ホグベンのどうも作話だというのが数学者の故遠山啓さんである。ディドローは数学の論文も書いているのだと彼は言っている。
もし、遠山さんの言うことが正しいとすれば、ホグベンのいたずらに私たちはまんまと乗せられたことになるが。お互いに数学に弱いことを白状することになるのである。いや、これは人間らしくていいですか。
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