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北大スラブ研公開講座№3 北極海航路の今後の行方は?

2018-05-17 18:38:18 | 大学公開講座
 北極海の海氷面積が減少していることは前回の講義においても国立極地研の榎本教授が指摘していたが、ある研究によると2050年にはほぼ海氷のない状態ともなると予測されている。そのような状況の中で、北極海航路の行方が注目されているという。

 5月14日(月)夜、北大スラブ研公開講座の第3講が開講された。
 この回は「北極海航路、過去、現在、未来」と題して北大北極域研究センターの大塚夏彦教授が講師を務めた。

             
             ※ 講義を担当された大塚夏彦教授です。

 まず、北極域研究センターの研究内容について、講義後にある方が質問された。「北大に以前からある低温科学研究所との違いは?」という質問に対して、「低温科学研究所は純粋に自然科学系の研究を行う研究機関であるのに対して、北極域研究センターは2015年に設立された新しい組織で、自然科学、人文科学、実学系を融合しながらあるべき姿を研究する機関である」と概ねそのように説明された。

             ※ 今回も大塚教授が提示してくれた資料の一部を使わせてもらいました。

             
             ※ 2016年の北極海の海氷の様子ですが、3月(左側)には全面結氷していますが、9月(右側)にはかなり氷の面積が狭まっていています。

 上記のようなことから、講師の大塚氏はお話は、北極海の現状を正しく把握し、その現状から私たちが北極域、ならびに北極海に対してどう向き合えばよいかという観点からお話された。
 北極海の現状については、前回の国立極地研の榎本教授のお話と大差はなかった。その中で、大塚氏はあるシナリオによると、2050年には北極海の海氷はほとんど消滅するのではないかと予測する報告もあると話された。
 このことは、北極海が欧州とアジアを結ぶ有力な航路として活用できる可能性が高まってきたことを意味している。

             
             ※ 北極海を航行する貨物船ですが、左側に原子力砕氷船が航路を開いて先導しています。

 一方で、北極海の一部であるカラ海の石油埋蔵量が以前の推計より多量であると報告されたり、北極海に面したヤマル半島において液化天然ガスの生産が開始されたりと、産業界にとっては資源地図が大きく塗り替えられようともしていると話された。
 こうしたことから、今北極海は俄然注目を浴びつつ、騒がしい状況となっているようだ。

             
             ※ 北極海を走る船ですが、日本の砕氷船は北極海に入ることを認められていないそうです。
 
 現状において欧州とアジアを結ぶ北極海航路は、北極海に面するロシアの経済的排他水域内を航行する場合が多いようだ。そのため、航行のイニシアチブはロシア側が握っているようだ。例えば、北極海航路を航行する貨物船は砕氷船に先導してもらいながら航行しているようである。その砕氷船は航続距離の長い原子力砕氷船が適しているようだが、ロシアは将来ロシアの原子力砕氷船3隻の航行しか認めないという規制を実施しようとしているとのことだった。
             
             ※ 北極海航路の軌跡ですが、ロシア沿岸を通り、ベーリング海峡を通って日本・アジアに航路が開かれていることが分かります。

 北極海航路は、北極海の海氷が今後ますます減少した時、これまで航行していたスエズ運河経由の航路より、距離を4割短縮できるとともに、ソマリア沖の海賊からの回避、輻輳するマラッカ海峡を避けることができるなどメリット面が大きく、航路としての将来は明るいようだ。
 しかし、経済的な有益性が伴えば、そこには当然各国の国益が衝突してくることでもある。
 もし、予測通りに北極海の海氷が消滅したとしたら、そこには新たな秩序形成に向けて、各国の思惑が乱れ飛び、きな臭い匂いが漂うことになるのかもしれない…。