広島県呉市で平穏に暮らしていた老夫婦(夫95歳、妻84歳)の間で、妻が認知症と診断されてしまう。妻は月日を経るごとに症状が進行してゆく。その妻を介護しようとする夫。その二人をカメラで追い続けた娘のドキュメンタリーである。
映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」は、今静かなブームとなっているようだ。札幌では去る9月に市内映画サークルが自主上映をしたとき大反響を呼んだらしい。そこで今回10月27日から5日間にわたり19回の上映をすることになったようだ。私は今朝(10月29日)札幌プラザ2・5に足を運んだのだが、朝にもかかわらず8割方席が埋まっていた。
映画は、テレビ番組の制作者として東京で暮らす娘が、広島県呉市で高齢ながらも夫婦で暮らす親の姿を撮り続けたドキュメンタリーである。高齢の親二人だけの生活を気遣う一人娘(この映画の監督である信友直子)は帰郷し両親の介護をしようかと迷うが、父親は「(介護は)わしがやる。あんたはあんたの仕事をせい」と高齢にもかかわらず気丈にふるまう。そのことから信友直子は、両親の記録を撮ることが自分の使命だと思い始め、それからはしばしば帰郷して両親の記録を撮り始めたのだった。
そうした日々の中で信友は母の変化に少しずつ気付き始め、病院で診察したところアルツハイマー性認知症と診断された。専業主婦として長年家庭を支え、信友が45歳の時に乳がんを発症した時には、めそめそしてばかりいる娘をユーモアたっぷりの愛情で支えてくれた母だった。そんな母が日に日に症状が重くなり家事をすることもできなくなった。それを見守る父は、それまで家事など一切しなかったが、洗濯、掃除をし、食事の用意をして妻を支える。腰が曲がり歩行も困難な95歳にして妻を支えようとする懸命な姿に真の夫婦愛を見るようだった。
病状は進行し、母は人格さえも失われていくような姿が映し出されるが、娘(信友)は泣きながらもその姿を映像に記録し続けるところに彼女のプロ根性を見た思いがした。映画は母の症状がさらに酷くなっていくのだろう…、という余韻を残して終わる。いくらプロとはいえ、娘としてそれ以上、母の姿をさらすことができなかったのだろう。
※ 母の手を取りながらもカメラを離さず記録を撮り続ける信友直子さんです。
映画を観ながら、他人ごとではない、私の、我が家の近未来を見る思いだった。どちらかが高齢によって困難に陥ったとき、信友の両親のように公の助けを借りながらも互に支え合っていきたいと強く思ったものである。
なお、題名の「ぼけますから、よろしくお願いします。」は、母が自らが認知症と診断され、まだ症状がそれほど進んでいない正月の朝、気分も落ち着いていた時に信友に向かって発した言葉を、信友が題名として採用したようである。