スマホをはじめとしたインターネットの普及は、様々な言説が飛び交うようになり “何が真実か” が見えにくくなってしまった。こうした現実に問いを発した中央大学学術講演会は私にとっては難解なところもあったが、非常に興味深いものだった。
9月20日(金)午後、北海道経済センターホールにおいて、中央大学学術講演会があり出席させてもらった。
講演は、中央大学法学部の教授で、副学長も務められている橋本基弘氏が「陰謀論・フェイクニュースとどう向き合うのか~陰謀論の時代と表現の自由~」と題して講演された。
この問題は、個人への誹謗中傷とか、有名人への根拠のない批判とかいうレベルにとどまらず、政治の世界や国家間のレベルでも問題とされる事象が多発している。このようなセンシティブな問題を90分間にわたって語られたのだが、そのことを正確にまとめる力など私にはない。あくまで私がお話を聴いて感じたことをレポしたに過ぎないことをお断りしておく。
まず「陰謀論」についてだが、これは実際に起きた、あるいは起きている事実の背景には、少数の有力な者がいて、これらの者がその事実を起こしているという物語を創り出してしまうことを指すという。例えば、自分が今不幸なのは、陰にいる者の陰謀があるからだと言いふらすこと、だという。
具体的な例では、前回の米大統領選挙において落選したトランプ前大統領は、「自分が落選したのは、選挙の開票作業において不正が行われたからだ」と根拠のない主張を繰り返したことにより、トランプ支持者が「ホワイトハウス襲撃事件」を起こしてしまったのは、まさにそこに陰謀論が働いた例であるという。
橋本氏は陰謀論の横行が次のような事態を引き起こすと悲観した。
① 陰謀論は、社会の分断を加速させ、修復不可能な状態まで追い込んでいく。
② 陰謀論は、スケープゴートを生み出し、民族浄化や反対者の粛清、大量殺戮を生み出す。
③ 陰謀論は、人々を疑心暗鬼にさせ、社会不安を増大させ、最終的には人権の否定に繋がる。
④ 陰謀論は、民主社会に不可欠な合理精神(証拠に基づく推論、反証による検証など)を否定し、市民相互の理解(コミュニケーション)の可能性を否定する。
一方、「フェイクニュース」には二つの種類があると橋本氏は云う。
一つは、見るからに誤りであると分かる情報、あるいは結果としてその誤った情報を受け入れるように導く情報、があるという。これを「誤情報」というそうだ。
もう一つは、人をあざむく意図をもって、作られ、拡散される情報があるという。これを「偽情報」と呼ぶ。
フェイクニュースには、「誤情報」と「偽情報」のどちらかを含んでいるのだが、時には「誤情報」が意図的に拡散されることにより「偽情報」に変化することもあるという。
今の社会には、こうした陰謀論・フェイクニュースが横溢している社会だとも云えるようだ。そうした中、生成AIの登場によって、フェイクなのか、真実なのかの見分けがますます難しくなってきている現実もある。
こうした陰謀論やフェイクニュースが社会をますます混乱させている現状にあるのだが、こうした現状に対して橋本氏は最後に現時点でのまとめとして次のように提示してくれた。
① 陰謀論、フェイクニュースの問題は、近代立憲主義そのものを問い直す難問である。
② 公私二分論、不法行為法、民主主義の維持における国家の役割など、これまでのリベラルな憲法思想では対応できない難問が幾重にも積み重なっている。
③ 表現の自由理論も大幅な修正を求められている。
④ プラットフォーム(GAFAなど)をどう位置づけるかの検討はまだ緒に就いたばかりである。
⑤ 21世紀に入り、まったく新しい対応策が求められている。
う~ん、難しい問題である。私たちはこれまでにはなかった新たな機器や、仕組みが登場するたびに、それを享受し続けてきたが、その裏にはこれまでには考えられなかった不都合なこと、新たな脅威が出現していることも常に意識していかねばならないということを改めて教えられた思いである。それにしても近代立憲主義を最上のものと考えてきた私たち人類は、こうした問題をどのように改善、改革しようとしているのだろうか?私たち一人ひとりにも課せられた課題でもあるのだが…。