山崎豊子著の長編「沈まぬ太陽」の映画化である。映画の方も上映時間3時間22分という長時間の映画である。映画では原作の要点を余すところなく表現していたが、それが良かったのかどうかは評価が分かれるところである。
※ 映画タイトルの後にナンバーリングを付けた。この数字は私が2007年に札幌に転居後に観た映画の通算の映画の数である。「映画は最高のエンターテイメント」と考える私にとって、これからも有料・無料にかかわらずできるだけ映画を観ていこうと思っている。
映画「沈まぬ太陽」(2009年制作)は2010年度の日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した作品である。同時に最優秀主演男優賞(渡辺謙)、最優秀編集賞も受賞している。
ご存知の方が多いと思うが、原作の山崎豊子著の「沈まぬ太陽」は第1部「アフリカ篇」上・下、第2部「御巣鷹山篇」、第3部「会長室篇」上・下と三部構成、全5冊からなる超の付く長編である。
映画は恩地元(渡辺謙)が所属する国民航空の飛行機が御巣鷹山に墜落・激突するシーンから始まった。私はそのシーンを観て、「あゝ、御巣鷹山墜落事故を中心に描くのだな」と思った。というのも、私は原作に目を通していたので、映画を観る前からとても全編を映画化するのは無理だ、と思っていたところがあった。ところが案に相違して映画は、時間軸をあちらこちらへと移動してアフリカ篇も会長室篇も余すところなくカバーしていた。
映画の主題は?と考えると、国民航空の社員の待遇改善のために組合の委員長となって会社と対峙した恩地が、その後の会社人生を会社の報復人事に翻弄されながらも、自らの意志を貫き通すというところにある。一方で、恩地と同じく組合の副委員長として闘った行天四郎(三浦友和)は会社側からの懐柔策を受け入れ、出世の道を歩み、その対比を描いた。
※ 組合委員長時代、会社側と対峙する恩地(渡辺)と行天(三浦)の二人。
会社は恩地を海外の困難地域といわれていたパキスタンのカラチ支店勤務を命じる。そこから日本に呼び戻されることなく、イランのテヘラン支店、ケニアのナイロビ支店と足かけ8年も海外支店をたらいまわしにされる左遷人事で辛酸を舐めさせられた。会社の懐柔策は続いたが、恩地はけっして会社の言いなりにはならなかった。
海外から帰国すると、国民航空の御巣鷹山墜落事故の事故処理、遺族謝罪廻りとまたまた陽の当たらない部署での勤務が続いた。
そうした中、半官半民の会社だった国民航空は政府が会社の経営が危ないとみて、関西の紡績会社の会長である国見正之(石坂浩二)を国民航空の会長に据える。すると国見は会社改革のために過去の恩地の経歴を買って会長室勤務を命じた。恩地は初めて会社の中枢において会社改革に乗り出すのだが…。
※ カラチ赴任時に海岸に立つ恩地と妻のりつ子(鈴木京香)の二人です。
つまり映画は原作を余すところなく描こうとするのだが、そのために一つ一つのエピソードを深く描き切れていない印象がどうしても残ってしまうのだ。
あの超の付く長編をうまく一編の映画にまとめることができた、とも評されるかもしれないが、私にはどうしても映画全体が平板に映ってしまった印象から逃れることができない。ただ、映画として3時間22分という長い上映時間だったが、観る者を退屈させなかったところはさすがだと思えた。
私が恩地の立場だったら、どうしただろうか?そのことについては敢えて封印することにしたい。