西区花園にある成道寺は、沢村大学以下沢村家代々の菩提寺として知られる古刹である。
自然山水の緑豊かなお寺として知られている。
夏目漱石はここに足を運んだかどうか知らないが、次の俳句を残している。
若葉して 手のひらほどの山の寺 漱石
この句には「成道寺」と前書きがあるそうで、漱石の孫娘婿の半藤一利は「3,000坪も有する名園」に対して失礼だろうと「漱石俳句を愉しむ」で解説している。
半藤氏もこの著が出たときまでは「残念ながら訪ねたことがない」と正直に吐露されているが。
「漱石熊本の句200選」の坪内稔典氏によるこの句の解説を読んでも、どうやら現場を踏んでおられるようには思えない。
「ひめくり子規・漱石 俳句でめぐる365日」の神野紗希氏も同様と思われ、「手のひらくらい小さな山寺。人間の体の部位になぞらえたことで、静けさの中にある体温が加わる」と解説されるが、このお寺の由緒は抜け落ちている。
正岡子規は「寝牀三尺」を読むと、身動きもならぬ病中でいくつかの句を顕しているが、現場を踏まずともすばらしい句が創作されることに大いに感嘆する。
しかし、成道寺に親しむ熊本人からすると、少々筋違いの解説には違和感を禁じ得ない。私ばかりだろうか。