すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

貧しさを重ねて、貧しさに気づくか

2007年02月14日 | 読書
 立命館小研修会の書籍販売コーナーで一冊の本を買い求めた。

 『脳の力こぶ』(集英社)  

 当日の講師である川島隆太教授と作家藤原智美氏の往復書簡と対談本である。
 藤原氏のノンフィクションを続けて読んできている自分にとっては、即、手にしまう本であった。

 この本で川島氏は、研究会での発言以上に明確な考えを述べている。
 「文科省から研究費がこなくなるか心配」と口にしながらも、言い切ったのは「英語早期教育絶対反対」と「学校教育にITを持ち込むことに大反対」である。藤原氏もそれに同調した形で論を重ねている。
 根拠として科学的な理由や情緒的な理由を挙げているが、それらを包括しているものとして、この国の歴史、現状そして未来が語られていることに説得力を感じた。

 真の国際化のために必要な「言語」とは何か、どういう段階で「身につく」と言えるのか、教育の市場化への懸念、等々が語られている。
 しかしいずれにしても大きな流れとして動き出しているこの二つの領域を、現実的に運用していく私たちがもっと勉強する必要を痛切に感じる。その意味でも、この本は貴重な提言にあふれていると思った。

 個人的に一番興味を持ったのは、藤原氏が述べた「パソコンで作文が上手になる」というくだりだった。
「脳と身体の運動量の比較」からして、当然文章の内容そのものに力を注げるパソコン書きのほうが優秀になるというものだ。
 もちろん、藤原氏はそのことを是としているわけではない。書くことに伴って当然生ずる字を調べることや手書きの抵抗によってへとへとになる過程をとばす教育への疑問を呈している。
 これもパソコンの使い方だ、要はバランスと結論づければそれでお終いだが、実は、根は結構深い気がしている。

 自分自身も筆記具としてのワープロを使うようになって十数年。時折、その習慣によって失われたものをふと考えたりする。そういう自分が子どもに向き合ったとき、何か足りないものはないのか…
 藤原氏のこの言葉はかみ締めたいと思った。

 勘のよい教師なら、教え子の字を見てその子の感情のぶれ、体調もわかるかもしれません。
 とにかく手書き文字には情報が満載です。CRT上の文章はそれに比べて非常に貧しいものです。この貧しさに気づかないのはダメですね。