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教育に必要なのはいつもそれ

2007年06月13日 | 読書
 『全国学力テスト、参加しません。』(明石書店)を読んだ。

 犬山市教育委員会の取り組みについて岩波ブックレットで知り興味を深くしたのだが、この本では教委で行っている実際の活動に加え、理念的な事柄がずいぶんと語られている。

 書名そのものが示していることなのだが、この本の趣旨は次の一文にまとめられる。

 私たちのとりくみの状況・成果・課題を整理しながら、全国学力テストが日本の公教育の健全な発展にとって、不要かつ有害であることを明らかにしたいと思います。

 第1章は瀬見井教育長が担当し、その後の章は課長、指導主事が続く。そして教育委員を務める大学教授が最終章を受け持っている。
 執筆者が異なるので、何度か同じような言い回しで主張されている部分もあったようだが、一貫して自分たちの取り組みに自信と責任を持っていて、勢いの感じられる文体が多かった。

 全国学力テストへの参加の有無は、地方教育委員会としての務めを果たすなかで突きつけられた問題ではあるが、それゆえに犬山では「何故、自分たちの道と合わないのか」が真剣に語られた。他の自治体や教委でそこまで真剣に論議を重ねたところがあったのだろうか。それはつまり論議に載せるエネルギーがあったかどうか、なのである。教育に必要なのはいつもそれではないか。

 従ってテスト実施に至るまでの経緯を一番注意深く見守っていたのも、この犬山教委ではないかと思う。その意味で、今回の調査を批判的な視点で分析するためには絶好の書と言えるかもしれない。

 中央での様々な改革が、大きく環境の異なる地方とどう折合いをつけたらいいのか、きわめて切実な問題にもなってくるだろうが、いや現実に進行しているといってよいだろう、そういう視点で教育委員会の在り方は常に問われているだろう。
 自分の周囲でも過疎化、少子化の中で統合、合併への道が進めば進むほど、その役割は重要になっていると感じている。
 回りくどいと思われても、今地方自治とは何か、教育行政の独立性とは何か…改めてそれを正面に据えるべきではないのか。
 その点について犬山は揺ぎ無く実行している。

 公立校では99.96%の参加率があったこの調査に対して、いわば反旗を翻すためにはよほどのリーダーがいなければならない。もちろん教育長もそうではあるが、自治体の長である市長の度量はいかばかりかと思う。
 岩波ブックレットの巻末鼎談で石田市長が発した言葉は、教員であれば誰しも元気付けられ身を引き締めさせられる、真のリーダーとしての発言ではないかと思った。

 教育改革というのは、私は現場の教師がすべてだと思っています。教師たちが、成果がある、と思うことが大事です。保護者、一般の市民はちょっとずれるんでね。つまり時間的ラグがある。それに僕は応えなければいけない。