すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

貫くことを象徴する言葉

2008年09月22日 | 読書
 立川談四楼という著者名と『師匠!』という題名の文庫本を見て、中身ももちろん帯に書いてあることにも目を通さずに、ああこれは談志のことに違いないと買ったのは先週のこと。
 土曜の朝にぼけっと寝転がって読み始めたら、これは短編集ではないか。もちろん落語界の師弟がテーマになっているわけだが、あれれえっと自分のおっちょこちょいさを反省した読み始めだった。
 いやいやしかし、これがするするっと読めていく。設定や展開もなかなか面白い。あっというまの2時間だった。

 談四楼は、立川流の第一期真打であるそうな。落語は聞いたときはないが、文章は上手だなあ。『赤めだか』の談春にも唸らされたが、こちらも相当に筆が立つ。
 既刊である『シャレのち曇り』もさっそく読んでみたい。

 さて五編の小説はどれも人物の輪郭がはっきりしていて、筋立ても見事だ。きっと画像にしても映えるのではないかと思う。中でも「先立つ幸せ」という作品がぐっと心に迫る。
 主人公の師匠は、踊りの名手である男色の噺家である。そういう設定が全くの異色ではないらしい、ということも新しい発見だった。特殊な世界の裏を垣間見たような気にさせられた。それ以上にこの師弟の格好良さが心に刺さる。
 その師匠の遺書に残された字句が「先立つ幸せ」であるが、何かを貫くことをこれほどまでに象徴できる言葉はそうあるまい。
 そして、そう残せる者は傍目からはドラマティックに人生を過ごしているように見えても、その日常はきっと驚くほど淡々としている。

 もしかしたら、談四楼の本当の師匠もそうなのかもしれない。
 唐突に「こうとしか生きようのない人生がある」という小椋佳が唄った歌詞の一節を思いだす。