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桜と絵本と豆乳と

夕焼けポストのような味

2012年02月05日 | 読書
 ドリアン助川が,以前『ダ・カーポ』という雑誌で,たしか「自分相談」と題したコーナーを持っていて,自作自演?の人生相談をしていたことがあった。これが本当に面白く,フィットするなあと楽しみにしていたことを思い出す。
 ドリアンは,ラジオや新聞などでも人生相談的なコーナーを持っているらしく,もはやその道のプロなのだろうか。

 『夕焼けポスト』(ドリアン助川 宝島社)

 今回のこの単行本は,幻想的に登場する「夕焼けポスト」に投函された架空の手紙に対して,返事を書き続けるある男の決意やためらいや納得を,「人の国」(インドであろう)への旅を通して描いた物語である。帯にもあるが,ファンタジーという類になるだろう。

 歴史的な有名人から,名もなき罪人,そして大震災後を生きる公務員まで,投函する者は様々な設定で手紙を書くが,誰しもがその心の重さを振り払いたい思いを持っている。

 それに対して,主人公たる「あなた」は,角度を変えるという考え方を駆使しながら,激励や寄り添い,時には扇動という形で返信をしたためる。

 角度を変えるは,最終的に「観自在」という悟りにいきつく。
 キーマンとなる少年との十五年ぶりの邂逅(いや約束された再会というべきか)がクライマックスとも言えるが,このあたりの表現が素晴らしく,「あなた」という二人称を使いながら読者を物語に引き込む。


 さて,私も人から相談を受けることは珍しくない。しかし,それに対して自分が明確に応えているとは思えないときがある。

 内容やその時の状況によっての違いが大きいが,唯一できることと言えば,やはり「聞く」だろうし,それは「聴く」という構えがなければ駄目だろう。

 よく,訊く人はすでに自分の心の中に答えを持っているものだ,という言い方をすることがある。どんな場合にも当てはまるかと言えばそうでもない気がするが,概ねそれは正しい。
 何事であっても解決できるのは自分であり,ゼロからのスタートでそこまでたどり着くことはない。結局,自分の中に解決につながる何かが芽を出しているはずだ。

 そうすれば,「角度を変える」の他に,距離を変える,大きさを変えるという視点も出てくるだろう。そうやって芽に気づかせることが,相談というもののコツか。

 この本には「心がラクになるたったひとつの方法」という副題が添えられている。それは「角度を変える・観自在」で間違いない。
 とすると「方法」でいいのか,と思ってしまうが,ここは「手立て・手段」ではなく,思考対象の取り扱い方という哲学的な意味によることがわかる。

 
 夕刻に,朝絞って瓶詰めされた日本酒を,知り合いの方からいただいた。
 http://spring21.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-585b.html
 立春の酒は,なんとなく夕焼けポストのような味がした。