すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

この頃の雑読メモ

2012年06月19日 | 読書
 読書記録がいっこうに進まないが,読んでいないわけではない。
 印象程度のものだが,やはり残しておくことが大事だ。少しずつメモしておきたい。
 好きな二人の作家の作品を読んだ。

 『プレゼント』(伊集院静 小学館文庫)

 短編と随想が収録されているが,表題作の「プレゼント」が考えさせられる。
 作者には珍しく学校という場がひとつの舞台として登場する。今までだと『機関車先生』ぐらいしか記憶がないし,そんなに多くは扱ってはいないと思う。何しろ「大人」の作家だろうから…。

 さて,それはともかくここでの「プレゼント」の意味は,とてつもなく重く,つらい。
 倖薄い主人公の娘が,一人の教員からかけられる温かい声,華やかな同級生から受け取った冷たい悪意の封筒…そのどちらも,彼女がこれからの道に大きな意味を持つものとなるが,その生の行方が閉ざされたような結末は悲しい。

 生きるということはある意味プレゼントのやりとりであり,その質だけが問題なのかもしれない。


 『キャンセルされた街の案内』(吉田修一 新潮文庫)

 これも短編集である。
 いつものことながら,人物の描き方がうまい。短編であってもキャラクターがけっこうたつので,他の作品に出てきそうな人物だなあとふと思ってしまうことがある。

 印象に残るのは「乳歯」という子連れの女と同棲している男の話と,これも表題作である「キャンセルされた街の案内」。
 これは小さい頃の軍艦島の思い出や,劇中小説?が書かれたりして,構成も巧みだ。

 作者が書くイメージのなかで,海や灯台が結構大きな位置にあるなあとふと感じた。
 『悪人』の印象が強いので重なるのかもしれない。