すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

雑読で知るピーク

2012年06月20日 | 読書
 『運がいいと言われる人の脳科学』(黒川伊保子  新潮文庫)

 著者が以前著した『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』は面白い新書だった。こうした言葉と音に関わることに興味を強く覚える。

 この本のなかでも「情のことば,知のことば」と題して,和語と漢語の発音からうけるイメージの違い及び使い方について記している箇所は納得だった。たとえば,激励の漢語とねぎらいの大和ことばなどの使い分けは,今更ながら新鮮に思えた。

 このほかにも,「当事者意識」「声の色」といった興味深い話題が豊富だった。
 男性の書く脳科学とはまた異なる視線があり,そこが読ませるところなんだろうと思った。
 特に,頻繁に登場する息子さんとの会話,やりとりが面白い。
 その中で,今までなぜ気付かなかったかと,膝をうったところがある。

 よく日本と外国との比較で,「自分に満足しているか」という類のデータが出されることがある。
 2011年の調査では,日米中韓の四カ国の高校生で日本が最も低い数値が出たという新聞記事が載ったことを覚えている人も多いだろう。

 なんとなくありがちなデータで,この国のいわば「幸福感」についてまた考えさせられるところだが,筆者は「自分に満足か」と問われれば大人の自分でも自信がないと言いきっている。
 そこから,日本の高校生のYESの少なさはともかく,アメリカ人は多すぎないかと疑問を持ち,19歳の息子にこの点を訊ねる。その即座の返答に得心した。

 「それは,言語の違いだろう」

 つまり,日本語の「満足」と,英語の「satisfy」では重みが違うというのである。
 「satisfy」は準備や条件が揃ったという語感を持つという。日本語の「満足」はやはり「結果」であり「成果」なのだ。

 その意味で,このデータから日本人高校生の積極性や有能感につなげるのは無理があるのかもしれない。
 まあ,ただそう問わざるを得ない言語の質を持ってしまっている現実からは目をそらせないのだが。


 この著に励まされることを最後に一つ書き留めて,自分自身の糧としよう。

 本質脳になるのは,五十代半ば。五十五歳ごろ,脳内では,人類最大の英知=連想記憶力がピークを迎える。

 物忘れしているくらいがちょうどいいらしいのである。