すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

脳の進化と現代環境は…

2021年03月23日 | 読書
 第一章冒頭に点ばかりの図が2ページ掲げられている。この図及び説明だけでもこの本を読む価値は大きかった。点は1万個描かれてあり、「この点1個が、20万年前に私たちの種が東アフリカに出現して以来の一世代を表している」。つまり1つが20年だ。私たちが享受しているこの機械文明は、点何個分の世代か。



『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン  新潮新書)

 非常に明快に伝わってくる。インターネットは2個に満たないし、スマホなど点1個でもない。しかし、私達の暮らしは今それによって覆われているのだ。第1章の見出しは「人類はスマホなしで歴史を作ってきた」であり、その観点に脳の進化を重ねれば、ギャップの大きさは想像をはるかに超えるのかもしれない。


 「人間は現代社会に適応するようには進化していない」と著者はいう。小集団で狩猟や採集をしていた期間は圧倒的な長さで、生きるためにどんな知恵を働かせるかを追い求めてきた人類である。そこで培われた脳や身体の進化が、たった数百年で激変した環境と合わせることが困難なのは、考えてみれば当然の理だ。


 第2章以降は、脳の働きと現代の暮らしを照らし合わせ、我々の思考と言動の訳を教えてくれる。第2章は「ストレス、恐怖、うつには役目がある」と題されこれもまた興味深い事項が紹介される。本文からは引用はしないが、冒頭に引用されているロバート・サポルスキー(生物学者)の文章が、非常に示唆的だ。

 「地球上に存在した時間の99%、動物にとってストレスとは恐怖の3分間のことだった。その3分が過ぎれば、自分が死んでいるか敵が死んでいるかだ。で、我々人間はというと?それと同じストレスを30年ローンで組むのだ。


 ストレスに対する選択は「闘争か逃走か」だという。見事な表現だ。人類はどちらかを選択して生き延びてきた。サバンナに暮らす時代も現代社会でもそれは適応される。ストレスに向き合った時に抱く様々な負の感情…恐怖や不安などが危険な世界から身を守り、生存率を高めてきた面があるという点は納得できる。


不安は人間特有のもの」という一節も理解できる。それは未来を予測する能力であるのだが、「現実の脅威と想像上の脅威を見分けることは、脳にはできない」と聞けば、現代社会においてストレスが長期化することは当然だ。だから脳は、「報酬システム」によってバランスをとろうとする。そこに登場したスマホだ。
つづく