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「桃太郎」と言ったって②

2021年05月18日 | 絵本
 日本一有名な童話といってもいい「桃太郎」には、様々なバージョンが存在する。図書館に在るものは、まあスタンダードなもので、次の2冊は典型的だろう。文章や描かれる絵には、それぞれ作家たちの個性があふれる。脚色は自分の中の物語の表現でもあるだろうし、それを味わうことが同一テーマの楽しみだ。


『ももたろう』(代田昇・文 蓑田源二郎・絵)講談社 1978.09


 これはずいぶんと脚色されている。もちろん特定の地方で語られていた場合もあるだろう。桃太郎が最初はなまけ者だったこと、一人で舟に乗り込み、鬼が島を目指す途中で、犬が島、猿が島…で家来と会うこと、大きな船にたくさんの娘や宝を積んで凱旋すること、などだ。墨を使った絵の雰囲気がなかなか見事だ。

 読み進めていると、なんとなく講談調の語りが合うように思えてくる。特に戦いの場面の調子のよさがマッチするように思える。「『そうれ、やっつけろ。』と、ほいさかどどどと もんのなかに とびこんで、あか、あお、くろのおにどもを~~」と畳み掛ける。擬音語だけでなく、全体をリズムよく語る手もありそうだ。


『ももたろう』(山下明生・文  加藤休ミ・絵)あかね書房 2009.10


 この絵本の特徴は、まず一つには筋がこまかく書き込まれている点が挙げられる。家来にする過程で、それぞれにきびだんごを「ひとつじゃたりない、ふたつあげよう」とする箇所もユニークだ。特に鬼が島上陸から退治するまでの描写が詳しく、読み応えいっぱいである。一流童話作家の文章がさすがに冴えている。

 また、絵も魅力的だ。クレヨン・クレパス画らしいが、暖かみがあるし、面白みの伝わってくるタッチである。あとがきに山下明生が文章を寄せていて「プリミティブな力強い絵」という形容がぴったりだ。一人で読んだり、少人数の読み聞かせたりするなら、この一冊を選ぶだろうと思う。「桃太郎」の魅力が高い。