すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

とんでもないと言ったふり

2021年06月11日 | 絵本
 「とんでもない」という語は、どことなく「飛(跳)んでも」を連想しそうだが、語源としては「途でもない」からの転とされている。つまり「道、すじみちでない」という意味から発している。日常語だがそんなに使わないか。ただ、大げさな言い方、つぶやくような発し方、緩急のつけ方等々、表現の工夫できる語だ。


『とんでもない』(鈴木のりたけ アリス館) 



 「どこにでもいるふつうのこ」のぼくが、「さいはいいなあ よろいのようなりっぱなかわが かっこいい」とつぶやくことから始まるこのお話は、評価された動物たちが、次々にリレー的に登場する。それぞれの持ち味と嘆きがテンポよく繰り返されて面白い。また絵の描写の精密さが、とぼけた感じを強調するようだ。


 隣の芝生が青く見えるように、誰しも自分にないものはよく見える。しかし、実際うらやましいと言われた相手はそう思っていないことが多い。「あったらあったでいろいろたいへん」は身に沁みる一節だ。自己の価値に気づかず、ないものねだりをするのは、生きとし生ける者の定めか。いや、違う。人間だけだろう。


 様々な動物たちが登場してくるので、読み方に変化をつけた方が面白い。キャラクタータイプの声ができる者なら、ぴったりだ。特に「とんでもない」の言い方一つで展開にめりはりが出てくるだろう。最後のオチは、「ふつう」の子の「ふつう」らしさを出して、安心の気持ちを持たせたい。幅広い世代に合う絵本だ。