すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

避難読書のはてに「幸」住む

2021年06月07日 | 読書
 いつもそうだとは思いながら、最近報道されているアレコレには、ずっと首がが傾いだままだったり、腹立たしさが治まらなかったりする。こんな時は風呂場読書が一番と思い、古本屋で手当たり次第にカゴにいれて読み出す。ところが避難したつもりでも簡単に入れてもらえず、玄関先で覗いた感じで欲求不満だ。



『ことばの食卓』(武田百合子 ちくま文庫)

 名前ぐらいは知っている作家。昭和それも戦前戦後の風景を「食」とそれに関わる日常や世相など綴っている。TVでこうした時代のことを観てはいるが、どこかぴんとこない。作家に想像力が必要なのは自明だが、もう一つ観察力があるなあとつくづく思う。そのマッチングによって、文章が紡ぎ出されているという印象を持つ。しかし、これを受けとめる読者側にある程度の素養がないと、なかなか入らないと痛感した。食のことなら、と思ったのだが「文化」の落差が大きかったか。



『読まずに死ねない 世界の名詩50編』(小沢章友  ジッピコンパクト新書)

 「~~(せず)に死ねない」というのは、PRのための常套句になったのか。「~食べずに死ねない」「~見ずに死ねない」…「○○しないとは人生の半分を損しているよ」という言い草もその類か。自分では使っても、他人から言われるとムッとしてしまう気もする。「世界の名詩」かあ。少しはかじってみたいと手にした。



 表紙カバーもおしゃれだし、少し心が安らぐかと思ったけれど、正直つまらなかった。50名の詩人等の作品が載せられている。詩はほとんど初見だ。一番有名なのはカール・ブッセの「山の彼方」だと思うが、その訳も散文調になっていて魅力を感じなかった。逆に、我々が学んだあの訳詞のよさをつくづく感じた。


 その意味で上田敏訳の素晴らしさを認識できたという点で価値のあった読書だったか(笑)。

山のあなたの 空遠く
「幸」住むと 人のいふ
噫われひとと 尋めゆきて
涙さしぐみ かへりきぬ
山のあなたに なほ遠く
「幸」住むと 人のいふ