すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

意気地なし、また笊を持つ

2021年06月25日 | 読書
 何度読んでも心に残る文章がある。

 読み返したくなる訳は、時々そうしないと忘れそうになるからというより、そこに浸る時間が好きなんだろうと思う。
 ということは、裏を返せば、実際に行動できない意気地なしか暇人であるという、怖い現状を物語ってもいるのだか…。



 読書ファン向けの雑誌『ダヴィンチ』の、もう15年以上も前の号である。
中島みゆき特集」があり、歌の題名に合わせて詩人や作家が、詩や掌編を書くコーナーがあった。

『杏村から』という曲に対して、同名の掌編を書いたのは作家堀江敏幸

 曲ではサビが「♪杏村から便りがとどく きのう おまえの誕生日だったよと」と繰り返される。
 堀江は、その部分からインスピレーションを働かせて著したのだろう。
 幼い頃父母を亡くし、今は都会に暮らす娘に宛てて、故郷の伯母さんから毎年とどく杏のジャムと短い手紙の物語だ。娘の独白は、こう締め括られる。

この年になって、わたしにもわかってきた。大事なことは、少し遅れてやってくるんだって―――伯母さんが詰めてくれた杏のジャムみたいに、そして、だれかを想う心の疼きみたいに。


 中島みゆきと糸井重里の対談も繰り返し読む。
 
 出色は糸井が中島の質問に答える件だが、そこはさておき、今日は中島がこう語った部分を拾っておこう。

 流行りを求めて歌をつくるタイプではないことは周知なわけだが、彼女の姿勢はこの一言に尽きると思った。

私には何ができるのかと思ったとき、速さより遅さだと思い当たったんです。先を急ぐ人たちは、たいてい何かを落としてしまうものだから。笊を持って、それを拾っていこうかなと。それを磨こうかなと。