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蚊帳に蛍を放す

2021年07月26日 | 雑記帳
 こんな題をつけてみたが、何のことかわかるのはこの辺りでも60代以上ではなかろうか。数年前の夏が近くなった頃、家人と思い出話をしたこともあった。先日、視聴した『木皿泉DVDブック』のドキュメンタリー内ドラマの題が「世の中を忘れたやうな蚊帳の中」であり、一緒に見たので、その時代の話がまた出た。


 蚊取り線香が普及する前だろう。夜は窓という窓を開け放って、寝床に蚊帳を開いた。親にはいつも「早ぐ入れよ」と蚊の進入がないように注意を受けていた。時折、蛍を捕まえてきて蚊帳の中に放し、その光を楽しんだのは、今想うと映画のようだ。もっともこうした遊びは、季節に一度や二度くらいだったと思う。



 さて、ドラマは「木皿泉」こと夫婦ユニット脚本家が書き下ろした。自宅を主たる撮影場所に、同じ会社に勤める二人暮らしの夫婦の話だった。薬師丸ひろ子と田中哲司、二人だけの出演で、物語の最後の方で「蚊帳」が登場する。通販で枕を注文したのに間違って送られてきた蚊帳を開き、その中で二人が会話する


 もちろんロマンチックなことではなく、上司である妻が夫に対してリストラを言い渡す場面になるのである。どうして、それが「蚊帳の中」なのか。これがポイントなのだろう。一面では、慣用句としての「蚊帳の外」に対応させているのかもしれない。つまり、情報共有する仲間同士という点も場の設定と見なせる。


 また、蚊帳は外の空気を通し、声や音は常に開放される。では今「世の中」はどうなのか。皆閉め切った空間を作り息を詰めて暮らしている。蛍を放した頃には戻れないけれど、人との関係は蚊帳の中のように築ければ幸せだ。つまり誰もが「ワタシはワタシ」と語り合えること。ドラマの二人の関係性は崩れなかった