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運命を決めるのは歴史だ

2022年05月12日 | 読書
 この文庫は4年ほど前の発刊だが、今この書名をみると少し複雑な心持ちになる。自分が高齢者の括りに入るまで生きてきて、今ほど将来に不安を抱いた時は正直なかった。震災のときは確かに動揺したけれど、暗鬱さは現在の方が強い。言うまでもなく、感染症と世界情勢がその理由となる。照らし合わせて読んだ。


『日本の「運命」について語ろう』(浅田次郎  幻冬舎文庫)


 歴史物、中国物を多く書いている著者なので、付随して調べたことを講演会で話すことが頻繁にあるらしい。その記録をもとに編集された一冊だ。第一章が「なぜ歴史を学ぶのか」と題され、プロローグ的に自身の生い立ち等が記されている。個人に引き寄せて考えてみても「運命」を決めるのはやはり「歴史」だ。



 それはさておき、国史として興味深くなるほどと頷くことがいくつかあった。一つは江戸末期のペリー来航の意味。常識的かもしれないが、アメリカに対する「最恵国待遇」はそこから始まっている。もし一週間ロシアの船が早く来ていたら、この国は全然違っていた形になっていた。今想像すると、怖ささえ感じる。


 江戸時代の参勤交代に関わる話。大名に力を持たせない幕府の巧妙な体制づくりというイメージが強い。しかしその長い継続によって、中央集権的な見方以上に、国全体の経済効果や花開いた様々な文化など、改めて感心することが多かった。幕末に参勤交代がなくなり経済が立ち行かなくなったという視点は新鮮だ。


 さて、「日本の運命」…冷静に見つめているつもりでも、何かに縋りたいのが今の気分だ。私淑する思想家は、軍事進攻をしている国と日本は「衰運のパターン」が共通していて、「この両国には残念ながら『未来』がないと思う」とも記している。せめて、身のまわりの手当てを続けながら、新しい芽を待ちたい。