百醜千拙草

何とかやっています

Nerd, Geek, Fulghum

2008-05-30 | Weblog
しばらく前にアメリカのTVシリーズで、「The Big Bang Theory」というシットコムがヒットしているという話題がScience誌(5/9/08; Talk Nerdy to Me)に取り上げられていました。物理学者が主人公のコメディーで、物理学ジョークが散りばめられています。私は見たことがないのですが、Science誌に紹介されている部分をみると、多少の量子力学についての知識が無いと面白いと思えないのではないかと思います。この番組は3大ネットワークの一つCBSでしかもプライムタイムに放送されており、毎週900万人が見ているらしいです。これは正直驚きでした。仮にアメリカ総人口が3億人、テレビのシットコムを見る人がうち一億人いたとして、その一割もの人々が、ジョークを理解するのに少なくとも理系の大学生なみの知識が必要な物理コメディーを見ているということは、理系ばなれが懸念されているアメリカでいったいどう説明すればよいのでしょうか。これが本当だとアメリカ人の知的レベルは実は高いのかも知れません。また理系ばなれは、理系の職業が経済的に不利であるからという理由だけで、本当はアメリカ人は科学が好きなのかも知れません。そういえばMariah Careyの新作アルバムのタイトルは「E = MC2」でした。中の曲は普通の恋愛ソングのようで、アインシュタインとも科学とも関係なさそうですが。無理して言うなら、「Love is Chemistry」ということでしょうか。この番組はUCLAの本物の物理学者David Saltzbergが参加しており、彼はこの番組が科学教育に役立ってくれることを望んでいると述べています。
 ところで、このScienceの記事のタイトルにあるように、余り一般的でない専門的な趣味に情熱を傾ける人、日本でいうオタクのことをNerdと言うわけですが、似た意味をもつGeekという言葉もあります。コンピュータオタクのことをComputer NerdとかComputer Geekといったりして、同意に使いますが、私の理解している範囲では、Geekの方がよりnegativeなconnotationが大きいように思います。もともとGeekはサーカスなどで、剣を飲み込んだり金魚を食べたりといった、グロテスクな芸をする芸人のことで、「変人」である部分がまず強調されているように思います。一方、Nerdは、ある趣味に対してのめり込み過ぎるために結果として変人となってしまったというような感じだと思います。見た目が変人でいずれもが特技をもっているという点は同じなのですが、NerdとGeekには変人に至った過程に差があるのだろうと私は理解しています。外向的変人がGeek、内向的変人がNerdと言えるかもしれません。しばらく前には、美女と野獣ならぬ、「Beauty and the Geek」というデート番組もありました。女の子は見た目は良いが頭が少し弱いタイプ、男の子は見た目は冴えないが何らかの特殊知識や技能を持っているというGeek/Nerdステレオタイプです。視聴者は、可愛い女の子がどんな変人を選ぶか(あるいは選ばないか)を見て、喜んだり、怒ったり、安心したりするわけです。私がGeekという言葉を覚えたのは、Robert Fulghum の本、「It was on fire when I lay down on it: 気がついた時には、火のついたベッドに寝ていた」の中の「Geek dancing」というエッセイででした。ワーカークラスの老いた男女が集う社交場での風景を描き、年甲斐も無く踊る彼らを愛情をもって、Geek、Geekessと呼んでいます。その本から20年もたって、現在Geekという言葉が指すものは、当時Fulghumの意図したものとは随分変わっているのではないかと思います。
 Robert Fulghumの代表作は、「 All I Really Need to Know I Learned in Kindergarten」と考えられていると思いますが、確かに人が社会の中で正しく生きていくのに必要な殆どのことは、幼稚園での生活から学べると思います。そのエッセンスが箇条書きにまとめてあります。「Clean up your own mess」、「 Don't take things that aren't yours. Put things back where you found them. 」、「Play fair. Don't hit people. Say you're sorry when you hurt somebody」などなど。 こういうことが出来ない大人が多いのですね。この「幼稚園児心得の錠」をすべてクリアできる大人は多分十人に一人もいないでしょう。最後にもう一つ、私の好きなFulghumの言葉、「 If you break your neck, if you have nothing to eat, if your house is on fire, then you’ve got a problem. Everything else is inconvenience.」
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