百醜千拙草

何とかやっています

Overnight Fame, 配管工ジョー

2008-10-17 | Weblog
今日はこの間の続きを書こうと思っていましたが、変更して、昨日のオバマとマッケーンの最後の討論会の感想を。
 これまで二回あった討論を見なかったので、この二人の直接対決を聞くのは私は初めてでした。最後にオバマがスカッと決めてくれるのを楽しみにしていましたが、これまで分が悪いマッケーンが殆ど全ての回答にオバマの批判を盛り込んだネガティブな攻撃をしかけ、対してのオバマは攻めよりも守りを固めるような比較的防御的な討論となりました。スカッとはしませんでしたが、オバマがリードを守りきったという印象です。税政策、ヘルスケア政策において、オバマとマッケーンははっきりした差があり、95%のミドルクラスの減税を約束するオバマに対し、マッケーンは企業、裕福層への減税によって、企業の競争力を高め、仕事を創り出す(ブッシュ同様の)金持ち優遇政策を支持しています。オバマのプランでは、大多数を占めるミドルクラス、スモールビジネスオーナーで年収が25万ドル(2,500万円)以下の人の税金を減らすかわりに、それ以上の収入のあるビジネスオーナーに関しては、増税や従業員のヘルスケアへの負担の増額で穴埋めをするという計画です。一方、マッケーンは、ビジネスオーナーへの増税はアメリカンドリームの実現を阻むといい、ミドルクラスの税金を優遇するかわりに企業から増税するというのでは、富をばらまいているだけで、それではアメリカの経済の発展を阻害するとの批判を展開します。マッケーンのプランでは、95%の一般アメリカ人の減税はなしでオバマはこの点を攻撃できたのですが、、オバマはマッケーン政策を批判するかわりに、自分の政策を強調することで一般アメリカ人にとって減税となることを明言しました。この税政策では、マッケーンが先制攻撃を出し、マッケーン自身のプランでは一般アメリカ人の減税が行われないという弱みを隠すために、アメリカンドリームを達成しようとするビジネスオーナーにとってオバマの政策がマイナスであることをアピールしました。その例として、先日オハイオでのオバマのキャンペーンに現れて、「ビジネスを持った場合にオバマのプランでは増税となってビジネスが難しくのではないか」とオバマに批判的な質問した配管工、ジョーのことを、マッケーンは突如持ち出し、一日10時間以上も働いてお金をため、ビジネスを買い取ろうとしている彼のアメリカンドリームの実現をオバマのプランが阻むとオバマを批判、テレビを見ているであろうジョーに向かって、語りかけました。もちろん、これはオバマの税政策に批判的な質問をした一般人ジョーを利用した詭弁です。多くのスモールビジネスでは、オバマの負担増となる25万ドル以上の年収には達しませんから、むしろ大多数のスモールビジネスオーナーのとっては減税となるはずです。アメリカ人の平均所得は5万ドル程度でしょうから、25万ドル以上の収入があれば、金持ちとは言えずともミドルクラスとは言えない層で、平均的アメリカ人とは言えないでしょう。勘ぐるに、こんな詭弁を弄してまで裕福層の権利を守ろうとするのは、マッケーン自身が奥さんの一族がもつ大ビール会社から多くの支援を受けているからではないかと思います。自分を支援してくれている身内の損になるような政策は打ち出せません。討論では、マッケーンが一般ミドルクラスアメリカ人の代表のようなジョーに、TVを通じて、オバマの税政策がマイナスであると語りかける様な形になったものですから、マッケーンへの反論の際に、オバマもジョーに直接語りかけるような口調で、ミドルクラスのアメリカ人にとっては減税になり、スモールビジネスオーナーになっても税金もヘルスケアの負担も増えないということを強調しました。結果、二人の大統領候補は、全国ネットのテレビを通じて、まるで、オハイオの一配管工へメッセージを伝えているかのような様相になりました。議論の際にジョーのことが何度も持ち出されたものですから、翌朝のナショナルニュースでは、このジョーの話題で持ち切りとなり、一夜にしてジョーは有名人となり、配管工ジョー(Joe, the plumber)のエピソードは早速Wikipediaにも収載されました。
 今回の討論、マッケーンのオバマへの攻撃は私はやはり逆効果ではなかったかと思います。挽回のためには他に取る手だてがないので、ネガティブ攻撃に出るしかなかったのでしょう。うまくいけば、オバマを抑え込めるし、あるいはオバマが挑発に乗って、うっかり失言でもしてくれて、自ら墓穴を掘ってくれるかもしれないと考えたのでしょう。しかし、オバマは渋く冷静に受けました。一般国民もそう捕えたようです。マッケーンの攻撃にカウンター攻撃を返すのではなく、自陣を固めて、マッケーンの攻撃を丁寧に防御する姿勢は、スカッとはしませんが好感の持てるものでした。結果、マッケーンがしつこいネガティブ攻撃に走ったというマッケーンの討論戦略に対する後味の悪さが残ってしまったように思います。ただ、オバマはマッケーンの言いがかりに対して、苦笑いを見せるところが多々ありました。これはちょっといただけません。これは8年前、ブッシュのアホさ加減に溜め息をついてしまったアルゴアと同じように、国民に真摯さを見せるという点でマイナスになってしまいます。
 今回のマッケーンの攻撃ぶりをみて、アメリカ人の半分ぐらいはマッケーンもなかなかやるなあと感心したでしょうが、結局、マッケーンの政策をじっくり考えると、オバマの政策と比べても具体性を欠きますし、また、ブッシュ同様の裕福層優遇、既得権利の保護と、「ワシントンを変える」と言いながらも、これまでとどう違うのかも見えてきません。国民の多くは、口先だけのマッケーンの「Change」や見せかけだけのVP候補を既に見抜いていると思います。今回の討論、私見では、マッケーンの捨て身の攻撃は、オバマに見切られて丁寧に受けられてしまい、オバマは頓死の筋を消して勝利を確実なものにしたものと思いました 。

訂正と追記。
マッケーンの税政策ではミドルクラスの減税が盛り込まれていました。マッケーンはその減税などで政府の減収となった分を、政府の支出を削減することでバランスをとるとの計画ですが、具体的な政府支出の改革案についての明言はありません。大学研究者などの連邦予算にその活動を依存している者にとっては、「研究費」というのは、削られやすい部門ですので不安に思っていると思います。マッケーンはNIH予算は上げるとはいっていますが、それは、彼の政府の経済規模を縮小する方針とは相容れないような気がします。確かに社会がうまく機能している時はできるだけ「小さな政府」が望ましいと思いますが、現在のような経済危機に陥っている時期では逆に政府の積極的なinterventionが不可欠と思います。マッケーンの「富の再配分」が悪いという考えは、30年前の共産、社会主義に対する批判で、共産、社会主義が結局、うまく機能しなかったので、それに関連する思想も悪いとの理屈でしょう。しかし、現時点で資本主義がうまく機能しているかといわれたら、結局、資本主義に基づく市場原理主義が今日の格差社会を作り出し、種々の問題の原因となっており、過去の資本主義が相対的に共産、社会主義に比べて多少よかったからといって、現在もそうであるとは思えません。資本主義もかなり危ない所まで来ていて、それに対する批判と揺り戻しが必要とされているのが現在であると思いますし、その点において、マッケーンの見方はちょっと甘いのではないかと感じさせます。
コメント (2)
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