7月9日号のNatureは、Editorialsで日本の科学政策の問題について、ニュース欄で横浜の科学高校について取り上げています。Editorialでは日本の科学が(沈没に向けての)転換点にあるという話。NatureのEditorがそう考えているのですから、日本の中にある不安というのは、外見にも明らかであるということなのでしょう。出版論文や去年のノーベル賞を見ていると、日本の科学技術が落ち目にあるというのが信じられない人もいるかも知れませんが、科学が落ち目なのは日本だけではないと思います。日本が相対的により悪いということであろうと思います。この記事で取り上げられているデータで、興味深かったのは、約10年前と比較して、大学での研究者の数は15%増えているのにもかかわらず、37歳以下の若手の占める割合はむしろ減少しており、現在、研究者人口の21%に過ぎない、ということそして大学で理系に進む学生の数は1992年の100万人から激減して2008年では63万人しかいない、ということです。これは勿論、2次ベビーブームが終わって、若年人口の減少を反映している部分が大きいと思うのですが、確かに狭い私の研究分野でも、パッとした若手が目につかず、残っているのは、昔からいる私より上の世代だけ、という感じになっているように思います。研究業界は研究資金の慢性的な制限のため、厳しい競争があって、若手には簡単にはお金があたらないようにできています。そこでじっと耐えて、こつこつ論文を書いて、経験を積んで、ようやく仲間に入れてもらえるという、閉鎖的な社会でもあります。われわれより上の世代で研究業界に残っている人々は、皆、そんな厳しい生き残り競争の中で残って来た人々で、彼らは若手も、自分たちが通って来た道を通るのだろうと思っているのでしょうが、やはり、若年人口が減って来た現在、そんな研究業界に入って、長年下積みを喜んでする若者も減っているのではないかと思います。
日本社会と日本の研究界の閉鎖性にも言及してあります。日本の研究界で働く外国人数が少ない、海外へ留学する日本人も減少しているなどのことが書かれています。私は、日本が閉鎖的であるのは、日本の科学にとって、悪いことではないと思っています。研究など、そもそも、非常に個人的で閉鎖的な活動ですし。誰も認めてくれなくてもオレはやる、というような研究の中からこそ、ブレークスルーが生まれるものだと思います。開放的にすれば研究が進むかと問えば、おそらく答えはノーでしょう。外国人研究者について言えば、日本で長期活動を目指す外国人研究者のキャリアパスは、アメリカに比べれば、格段に悪いと思います。日本はそもそも、外国人が来たがらない環境なのですから、無理をして外国人研究者を増やす必要はないと私は思います。そんな余裕があるなら、もっと日本人の若手に投資するべきです。
最後にこのEditorialでは例の270億円の研究資金の集中投下について触れてあり、長期的な日本の研究界の発展を考えたら、この大金は、(通常の)競争的研究資金や若手のサポートなどに使われるべきであると批判しています。私もそう思います。先日、近所での学会の帰りにひょいと訪問してくれた人も、日本の科学政策について、エリート施設だけを残して、残りを淘汰しようとする方向に進んでいるようだが、淘汰対象の施設にはそれを明言せず、不平等な政策によって格差を拡げようとしているようだ、と教えてくれました。言い出せばきりがないですが、これは日本の科学研究界の自殺行為に他なりません。最後に、このNatureの記事は、「若手研究者の独立支援の慢性的な失策のために、科学技術力の点で、日本は(転落への)限界点を越えつつある」と締められています。
もう一方の記事では、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校(YSFH)について紹介されており、この30年ぶりの新設公立高校は、最新の実習設備を備えた科学系高校で、理研ゲノム研究センターに隣接し、その設立には理研の和田昭允さんがアドバイザーの一人として関与していることが述べてあります。初年度の競争率は5倍とのことで、神奈川県の公立高校では最高の人気をとったらしいです。若者は決して理科系に興味がないというわけではなく、研究者で喰って行くのが難しいから、理系研究者への道を避けているだけなのだと思います。それでも研究者をやりたいという若者が出てくる確率を増やすには、やはり、このような裾野の努力が必要なのだと思います。私は、研究など、どうしてもやりたい、という人以外はやらなくてよい、と思っていますから、安易に若手にこびるような政策よりは、とにかく若者の知的好奇心を刺激するような教育を早いうちから導入して、研究に興味を持つ人のマスを増やしていくのが大切だと思います。この横浜のYSFHのようなお金のかかる教育をどこでもやるわけにはいかないとは思いますが、日本の科学振興の上では、初期教育、高校教育に投資するというのは、もっとも投資効率が高いと思います。実のところ、私は日本の科学が振興する必要は別にないと思っておりますし、研究など物好きな人が、できる範囲でやればよいと思っております。日本の研究環境がもっと悪化して、研究が困難になっても、それでもやりたいという人はいるでしょう。そういう人が、研究をすればよいのだと思っております。しかし、国が科学研究を支援する以上は、ヘンに大学や施設ごとに格差をつけようとすることは、百害あって一利なし、であると思います。支援するなら公平にやらないと、支援しないよりもずっと悪いと私は思います。そもそも、日本は、他の諸国の追い上げの厳しい中で、人材も乏しくなっていく中、いつまでも科学工業技術一本で立国していくのは厳しいでしょう。世界の目は、日本は二部リーグに転落しつつある、と読んでいます。私は日本は二部リーグでよいと思います。そして、もっと第一次産業の振興を考えた方が住み易い良い国になるだろうと私は思います。
日本社会と日本の研究界の閉鎖性にも言及してあります。日本の研究界で働く外国人数が少ない、海外へ留学する日本人も減少しているなどのことが書かれています。私は、日本が閉鎖的であるのは、日本の科学にとって、悪いことではないと思っています。研究など、そもそも、非常に個人的で閉鎖的な活動ですし。誰も認めてくれなくてもオレはやる、というような研究の中からこそ、ブレークスルーが生まれるものだと思います。開放的にすれば研究が進むかと問えば、おそらく答えはノーでしょう。外国人研究者について言えば、日本で長期活動を目指す外国人研究者のキャリアパスは、アメリカに比べれば、格段に悪いと思います。日本はそもそも、外国人が来たがらない環境なのですから、無理をして外国人研究者を増やす必要はないと私は思います。そんな余裕があるなら、もっと日本人の若手に投資するべきです。
最後にこのEditorialでは例の270億円の研究資金の集中投下について触れてあり、長期的な日本の研究界の発展を考えたら、この大金は、(通常の)競争的研究資金や若手のサポートなどに使われるべきであると批判しています。私もそう思います。先日、近所での学会の帰りにひょいと訪問してくれた人も、日本の科学政策について、エリート施設だけを残して、残りを淘汰しようとする方向に進んでいるようだが、淘汰対象の施設にはそれを明言せず、不平等な政策によって格差を拡げようとしているようだ、と教えてくれました。言い出せばきりがないですが、これは日本の科学研究界の自殺行為に他なりません。最後に、このNatureの記事は、「若手研究者の独立支援の慢性的な失策のために、科学技術力の点で、日本は(転落への)限界点を越えつつある」と締められています。
もう一方の記事では、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校(YSFH)について紹介されており、この30年ぶりの新設公立高校は、最新の実習設備を備えた科学系高校で、理研ゲノム研究センターに隣接し、その設立には理研の和田昭允さんがアドバイザーの一人として関与していることが述べてあります。初年度の競争率は5倍とのことで、神奈川県の公立高校では最高の人気をとったらしいです。若者は決して理科系に興味がないというわけではなく、研究者で喰って行くのが難しいから、理系研究者への道を避けているだけなのだと思います。それでも研究者をやりたいという若者が出てくる確率を増やすには、やはり、このような裾野の努力が必要なのだと思います。私は、研究など、どうしてもやりたい、という人以外はやらなくてよい、と思っていますから、安易に若手にこびるような政策よりは、とにかく若者の知的好奇心を刺激するような教育を早いうちから導入して、研究に興味を持つ人のマスを増やしていくのが大切だと思います。この横浜のYSFHのようなお金のかかる教育をどこでもやるわけにはいかないとは思いますが、日本の科学振興の上では、初期教育、高校教育に投資するというのは、もっとも投資効率が高いと思います。実のところ、私は日本の科学が振興する必要は別にないと思っておりますし、研究など物好きな人が、できる範囲でやればよいと思っております。日本の研究環境がもっと悪化して、研究が困難になっても、それでもやりたいという人はいるでしょう。そういう人が、研究をすればよいのだと思っております。しかし、国が科学研究を支援する以上は、ヘンに大学や施設ごとに格差をつけようとすることは、百害あって一利なし、であると思います。支援するなら公平にやらないと、支援しないよりもずっと悪いと私は思います。そもそも、日本は、他の諸国の追い上げの厳しい中で、人材も乏しくなっていく中、いつまでも科学工業技術一本で立国していくのは厳しいでしょう。世界の目は、日本は二部リーグに転落しつつある、と読んでいます。私は日本は二部リーグでよいと思います。そして、もっと第一次産業の振興を考えた方が住み易い良い国になるだろうと私は思います。