百醜千拙草

何とかやっています

故人二題

2009-07-10 | Weblog
 マイケルジャクソンのメモリアルが火曜日に行われ、アメリカのテレビでもいまだに連日、マイケルジャクソンがらみの話題ばかりです。トップラインのニュースが芸能ネタということは、世の中は比較的平和なのだ、というわけではおそらくなく、世界の様々な問題を取り上げるより、マイケルジャクソンの遺産騒動や子供の親権争いをトップにする方が視聴率が取れるということなのでしょう。
 ウイグルでの民族対立、中東や旧ソ連のジョージアのようにならなければ良いのですが、その可能性は高いように思います。やはり多民族国家で世界最大の人口の中国が漢民族をトップとするヒエラルキーの中で国を統治するというのは、無理があります。世界最初の法治国家を作ろうとした始皇帝でさえ、一代もたせるのが精一杯でした。民族独立運動は不可避だと思いますし、それを中国政府はどんなに頑張っても抑えることはできないであろうと私は思います。私は世界はglobalismへの反省をもって、diverseな小コミュニティーの流動的集合状態へ別れて行くのが自然であると思います。それらの比較的小さな単位がブラウン運動しながらお互いのベクトルを相殺し、全体として安定した状態をつくるような社会が理想ではないかと思います。しかし、残念ながら、人間の産業、軍事活動、そしてそれを促進してきた征服欲は、既に放置しておくと人類を滅亡させうるレベルにまで大きくなってしまっており、世界的な統制が必要なのは事実です。世界が一斉に、核や車や飛行機や大量生産を捨て、産業革命前のような生活に戻ることが、私には唯一有効でダメージの少ない方策に思えます。それができれば、民族問題、環境問題をかなり劇的に改善させると考えられます。勿論、そんなことは不可能ですから、結局、人類は自らの足を喰う蛸のように、自らの破滅によってしか、バランスを取り戻すことができないのでしょう。

 7月2日号のNatureは久しぶりに読み応えのある、興味深い論文や記事の多い号でした。再生医学、ステムセルがらみの論文が、生物系原著論文の半数ぐらいあります。中でもサンショウウオの足の再生の論文はシンプルかつエレガントな方法を用いて、重要な疑問に答えた、美しく力強い佳作でした。それから、私は、いつも訃報欄を楽しみにしているのです。と言っても、人の不幸は蜜の味、というのではなくて、そこに個人的な科学の発見の歴史がレトロスペクティブにまとめてあるからです。この号では、先日、92歳で亡くなったRobert Furchgott博士の血管拡張因子としてのNOの発見について述べられてあります。狭心症の治療薬としてニトログリセリンがNO供与体として臨床でも用いられていますが、内在性の血管拡張因子が血管内皮細胞で産生されるNOであるということがわかるには大変な年月がかかったこと、最初のきっかけはテクニシャンの失敗した実験であったこと、NOを突き止めたとき、Furchgottは70歳で、ラスカー賞とノーベル賞をもらったのが73歳、75歳の時であったこと、というような話は、大変inspiringです。Midlife crisisにある中年の人々に感動を与えるような話だなあ、と思います。このような発見をすることができたというのは、研究者冥利でしょうし、私もそんな研究がしたいものだと思いました。

 故人をレトロスペクティブに振り返る(重複表現ですね)ということで、マイケルジャクソンのキャリアを眺めれば、やはりクインシージョーンズがいなければ、マイケルジャクソンはジャクソンファイブのマイケルで終わっていただろう、クインシーとの出会いが彼のターニングポイントであったのだなあ、という気持ちが湧いてきます。それで、クインシージョーンズの日本でも大ヒットした「愛のコリーダ(Ai no Corrida)」(この曲、オリジナルはイギリスの歌手だそうです)をYouTubeで聞いて、昔を思い出してしみじみしました。このころは、 Earth Wind and Fireが大ブレークした後で、クインシーのアレンジもファンキーです。後になって、クインシージョーンズは昔はビッグバンドジャズの人でサラヴォーンの曲のアレンジなどをやっていたと知って驚いたのを覚えています。時期的には、ちょうどマイケルジャクソンの「Thriller」の前に出ています。
コメント (1)
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