百醜千拙草

何とかやっています

ヒトES細胞の臨床応用成功?

2012-01-24 | Weblog

 

米バイオ企業のアドバンスド・セル・テクノロジー社は23日、あらゆる細胞に変化できるES細胞(胚性幹細胞)から作った網膜細胞を、ものがほとんど見えない患者2人に移植して視力を回復させることに成功したと発表した。

 英医学誌ランセットに掲載された。ES細胞を使った治療で効果が論文として報告されたのは初めて。

 同社は2010年11月から、ともに網膜に原因があって視力が低下した加齢黄斑変性症の70歳代女性と、スターガート病の50歳代女性に臨床試験を実施。ES細胞から作った網膜色素上皮細胞5万個を、片側の目に移植した。

 その結果、70歳代女性はそれまで手の動きしか識別できなかったが、移植の1週間後には指の本数を数えられるようになった。50歳代女性も識別できる文字の数が増えたという。手術から4か月が経過した時点でも、移植した細胞の異常増殖など、安全上の問題は見られないという。同社は、さらに多くの患者で安全性と有効性を確認する。

というニュース。

疑り深くてナンですが、本当でしょうか。ついこの間のNatureでこの会社のことがカバーされていて、興味深く読んだところだったからです("Never say die" Nature 2012 481m 130 - 3)。

この会社、確か、マウスのクローニングをやった若松さんが一時、在職していたこともある当時はかなり先端のバイオテクでした。このNatureの記事によると、過去の仕事は華やかです。98年にウシのクローン、2001年にはヒトのクローン(しかし細胞分裂は数回しかせず)、2006年は数細胞ステージのヒト胎児の一個の細胞からクローン化など、クローン技術に関しては、かなりのハイインパクト論文を出してきています。最後の論文は私も覚えていますが、同時期にiPSの論文が発表されて、ヒトES細胞に対する人々の興味がiPSへと急激に移っていきました。クローン技術に関しての華やかな業績の一方で、ヒトクローン化技術やES細胞に対する風当たりが強くなってきたこと、応用技術開発の困難から、この会社は、過去10年間、ずっと資金繰りに苦しんできています。2005年には、株式上場で資金を集めようとしましたが、上場資金がなく、ユタの人形販売のパッとしない上場企業と合併することで、株式市場から資金を集めたりもしています。そんな中で、ACTよりも大手のライバル会社、GeronがES細胞ベースの治療法の開発の中断を昨年11月に決定し、事実上、ヒトES細胞を使った治療開発を行っているのはこの会社だけになったという事情があります。

つまり、何が何でもこの臨床試験を成功させなければ、会社は潰れる、という状況に会社はあるのです。小さな会社や私の研究室のようなところはどこでも同じでしょう。自転車操業ですから回転が止まった瞬間に全てが終わりです。小さな会社や研究室ではリスクヘッジするだけの余裕があるところは稀です。

この臨床試験の終了は13年の予定です。仮に成功したところで、無事、商品化できて、利益が上げられるかどうかわかりません。会社の命運はまだまだ、わかりません。しかし、それまでの臨床試験のコストや会社の運営費、などなど、金はどんどんかかります。その金をどこから集めるのか、投資者から集めるしかありません。そして、ポジティブなデータを一流紙に発表することが、投資者の興味を集めるのには極めて有効であるのは論をまたないでしょう。会社としては、何が何でもポジティブデータを出したいという強い願望があります。

 

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姑息な政府の情報隠蔽工作

2012-01-24 | Weblog

国民をバカにした政府の情報隠蔽工作が次々と明らかにされてきています。地震後の原発事故直後、原子力委員会の想定した「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」という文書が、「ものすごい内容だったので、文書はなかったことにした」ことが明らかになりました。アル ゴアの「不都合な真実」という映画がありましたが、日本政府や政権も、彼らにとって都合の悪い事実、文書は平気でウソをつき、隠し、ゴマカシて、国民を危険に晒すのを厭わないのです。戦時中の関東軍や大本営と全く同じ体質です。しかも、昨日のニュースだと、原子力事故後の安全対策を議論するための会議、政府の「原子力災害対策本部」での議事録そのものが(おそらく意図的に)作成されていなかったことが、情報公開請求に伴ってわかったそうです。言うべき言葉がありません。会議はやったという形だけやったらそれでおしまいで、その会議から何らの有益な結果を得て原子力災害の対策に役立てようという意図が全く感じられません。ただのアホウならまだしも、この連中は確信犯ですからタチが悪いです。自分たちだけ良ければ、国民などどうでもよい、という態度が丸見えです。小沢裁判でもそうでした。でっち上げがわからないように検審会の議事録はなし、度重なる情報公開請求にも、検審審査員の年齢でさえ屁理屈をこね回して開示せず、検審をウラから操っている最高裁事務局の担当には電話さえ繋がらないというふざけた話でした。検察の取り調べでも都合の悪い情報は廃棄してストーリーに合う話だけを調書に載せていました。政府のやることは本当に悪質です。また、ハラが立ってきました。

 

さて、アメリカ大統領予備選、サウスカロライナ戦、ギングリッチが大きく巻き返し、ロムニーに10%以上の差をつけてのトップでした。思うに、南部の保守的キリスト教信者が多いであろう土地柄が北部のモルモンのロムニーを嫌ったことに加え、撤退したペリーがエンドースしたことで、その票が流れたこと、そしてギングリッチがロムニーのネガティブキャンペーンを大々的に張ったことなど複数の要因がこの勝利に影響したのでしょう。1980年以来、共和党はサウスカロライナの予備選を制した人が指名を受けてきています。ロムニーは失速ぎみですし、ポールやサントーラムという線はおそらくないでしょうから、予備選前に大きく後退したはずのギングリッチが再び返り咲いて、指名を受けることになるのかも知れません。いずれにせよ、3月のスーパーチューズデーに大勢が決定することになると思います。

ポールは4位に終わりましたが、選挙後のスピーチでは、「4年前に比べると、数倍のサポートがあり、リバタリアン運動の勢いはますます大きくなっている、(指名獲得を決めるための代議士票のうち)2%が決まったに過ぎない」と選挙運動継続への強い意志を示しました。今回も選挙後のスピーチをYoutubeで見てみましたが、ビデオ視聴者による残りの3候補、ギングリッチ、ロムニー、サントーラムへの評価とポールの評価の差には驚くばかりです。にも関わらず、実際の投票結果に、それが反映されているようには見えません。

アイオワは党員による選挙(コーカス)でしたが、ニューハンプシャーとサウスカロライナは一般選挙(プライマリー)でした。一般選挙であれば、あまり政治に関心のない人も何となく投票所へ言って名前を聞いたことのある人に投票するでしょうから、テレビコマーシャル枠を先に買い占めた人が有利でしょう。一方、党員選挙では、すくなくとも党と党員の利益を増加させてくれる可能性の高い人に投票するでしょうから、候補者の中身はもう少し吟味されるだろうと思います。残っているトップ4の内、中身がもっともないのはロムニーだろうと私は思います。州知事をやった経験はあるものの国政参加経験はなし。本人自身が、アメリカの経済低迷の根本原因となってる株式投資などのバクチで富を築いきているわけですから、アメリカ経済を何とかできる筈もありません。ギングリッチは良いか悪いかは別にして、少なくとも経験というものはあります。

しかし、ポール以外の3人に、アメリカの今の病を根本的に治癒させるような治療はできるとは思えません。ポールは、彼の主張通りのことを本当にやるならば、成功率30%の大手術を試みるでしょう。成功しても、かなりの間はつらいリハビリが必要ですし、失敗すれば、国としての機能を失い、ソ連のように国家分裂、消失となるかも知れません。人は多かれ少なかれ、変化を嫌い安定を好みますから、成功率が低いとわかっている手術に同意するには、相当のモチベーションが必要だと思います。そういう理由で、ポールが指名を受ける可能性は低いだろうと考えざるを得ません。残っている候補の顔を眺めると、オバマに勝てる可能性のある候補はポールしかいないだろうと私は思うのですが、彼では「過激」過ぎて共和党も危険に晒されると思う人々が、パッとしない残りの候補者に票を分散させてしまうのではないでしょうか。

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