せっかく何ヶ月もかけて準備して来てもらったポスドクの人でしたが、この開始からの一ヶ月足らずを見て、これはもう見込みがないと判断せざるを得ない状況となりました。このままずるずるいけばお互いに不幸になるのが明らかだったので、やめてもらうことにしました。
本人はおそらく研究キャリアの現実の厳しさをあまり理解していなかったのではないかなと思います。好きな時間に研究室に来て、誰かの指示で手を動かしていれば自動的に論文が出て、次の職につけるとでも思っていたかのようです。しかし、指示をしようにも、最初の日から毎日一時間以上遅刻して誰よりも早く帰られてはその時間もありません。
環境の変化や言葉の問題などなどを差し引いても、自分が期待されていることをよく理解しておらず、状況を客観的に見る能力にも乏しいと分かった時点で、黄色の点滅信号がピコピコでしたが、実際にごく初歩的な実験をやらせてみたら、実験のデザインも目的も理解できておらず、言ったことが覚えられず、手先も不器用だということがわかって、赤の点滅に変わりました。最後のトドメは、実験の実際上の問題について質問にやってきたときに、こちらが説明している間、話を聞いていなかったことです。さすがにキレてしまいました。そこから突如、説教タイムとなり、今後、このまま続けても、どう考えても、お互いに実りのない時間になることが明らかだと確信したので、やめてもらうよう説得し、納得してもらいました。おかげで、彼の次の職探しの世話までする羽目になっています。
人間、何でも現実を自分のつごうの良いように解釈するようにできているものです。最初に応募してきたときに、ちょっとパッとしないなあ、と思ったのは事実です。コミュニケーションにも多少難があると思いましたが、彼の経歴とプロジェクトがマッチしていたので、第一印象がパッとしないのも、緊張しているせいだろう、とか言葉の問題に過ぎないに違いない、と都合よく解釈してしまいました。しかし、直感というのはだいたい正しいものです。普段は私は直感を信頼しているのですが、ちょうど人が欲しかったし、レジュメ上はピッタリと思われたので、直感を無視してしまいました。最終判断を下す前に、直感の理由を理性的に検討すべきでした。
現実は、言葉の問題もありましたが、それを差し引いてもコミュニケーションは事実下手でした。コミュニケーションが下手というのは、自分と周囲を客観的に観察した上で相手が何を欲しているのかを察する分析能力の欠如、もしくは相手の欲求に適切に反応する運動能力の欠如、を示唆します。これらの能力は、客観的にものごとを観察し、その観察事象を解釈して、仮説を立て、それを実験的に検証していく、という科学研究に必要な能力と同じものです。第一印象や見た目が悪いというのも同じことです。見た目を根本的に変えることはできませんけど、知らない人に会うときには、清潔で適切な身なりをする、目があえば微笑む、といったように相手によい印象を持ってもらう努力はできるはずで、それは簡単にわかります。見た目の第一印象もコミュニケーションの一部であり、そういうことに気を配らないということは、実験においても細部に気が回らず、バカなミスを連発する可能性が高いことを意味すると思います。
一事が万事といいますが、普通の人間が理解できないような天才でない限り、コミニュケーションに難があり、第一印象が悪いというのは、科学的能力の低さと相関すると私の経験からは言えます。そして、30前までそうだった人が、多少指導したぐらいで、急激に成長して生まれ変わるなどということは現実には、起こりません。
悪い人ではないのはよくわかります。時間をかければそれなりになるかもしれません。しばらく逡巡はしたのですけど、今度は理性的に考えました。実験がヘタでもやる気があるのなら大変ですけど指導はするし、やる気はイマイチでも結果を出すのなら、それなりのやり方も考えます。でも、ポスドクなのに、実験がダメで、科学的研究の基礎が理解できておらず、やる気もない人はお手上げです。
よくわからないのは、小さな仕事とはいえ論文は書いているし、PhD時代の指導者からの推薦書は比較的強い、そういう人が実験のコントロールの取り方も理解できないのはどういう理由なのかということです。私にはマイクロマネッジメントはできないし、その時間もないので、PhDでありながら自分の頭で考えて行動して結果を評価するという作業ができない人を、イチから教育して使えるようにする、ということは不可能です。そもそも、そういう理由で技術補助員ではなくポスドクを雇ったのですし。
雇うのも大変でしたが、やめてもらうのも一苦労。規定上、三ヶ月は雇用を持続する必要があり、これまでの時間と労力がすべて無駄になり、私にとってはマイナスからやりなおしの上、やめてもらうために最長三ヶ月は意味もなく雇用しなければならなくなってしまいました。研究計画はすべて一旦、白紙です。手持ちのプロジェクトを見直して、見込み薄のものは全部カットし、最優先プロジェクトに関しては技術補助員に任せられるレベルになるまでは、自分でやることにします。やっと資金を工面して来てもらって、これからだ、と思っていたらいきなりコケて半年前のレベルに逆戻りで、ちょっとガッカリ。
しかし、今、ロスカットをためらって、彼が塩漬けにでもなれば、共倒れ必至です。私もすでにダメージを受けていますが、このままずるずるいくと、今後はそのダメージが蓄積するだけでなく、結局、相手も不幸になります。彼には別の場所がきっとあるでしょう。
本人はおそらく研究キャリアの現実の厳しさをあまり理解していなかったのではないかなと思います。好きな時間に研究室に来て、誰かの指示で手を動かしていれば自動的に論文が出て、次の職につけるとでも思っていたかのようです。しかし、指示をしようにも、最初の日から毎日一時間以上遅刻して誰よりも早く帰られてはその時間もありません。
環境の変化や言葉の問題などなどを差し引いても、自分が期待されていることをよく理解しておらず、状況を客観的に見る能力にも乏しいと分かった時点で、黄色の点滅信号がピコピコでしたが、実際にごく初歩的な実験をやらせてみたら、実験のデザインも目的も理解できておらず、言ったことが覚えられず、手先も不器用だということがわかって、赤の点滅に変わりました。最後のトドメは、実験の実際上の問題について質問にやってきたときに、こちらが説明している間、話を聞いていなかったことです。さすがにキレてしまいました。そこから突如、説教タイムとなり、今後、このまま続けても、どう考えても、お互いに実りのない時間になることが明らかだと確信したので、やめてもらうよう説得し、納得してもらいました。おかげで、彼の次の職探しの世話までする羽目になっています。
人間、何でも現実を自分のつごうの良いように解釈するようにできているものです。最初に応募してきたときに、ちょっとパッとしないなあ、と思ったのは事実です。コミュニケーションにも多少難があると思いましたが、彼の経歴とプロジェクトがマッチしていたので、第一印象がパッとしないのも、緊張しているせいだろう、とか言葉の問題に過ぎないに違いない、と都合よく解釈してしまいました。しかし、直感というのはだいたい正しいものです。普段は私は直感を信頼しているのですが、ちょうど人が欲しかったし、レジュメ上はピッタリと思われたので、直感を無視してしまいました。最終判断を下す前に、直感の理由を理性的に検討すべきでした。
現実は、言葉の問題もありましたが、それを差し引いてもコミュニケーションは事実下手でした。コミュニケーションが下手というのは、自分と周囲を客観的に観察した上で相手が何を欲しているのかを察する分析能力の欠如、もしくは相手の欲求に適切に反応する運動能力の欠如、を示唆します。これらの能力は、客観的にものごとを観察し、その観察事象を解釈して、仮説を立て、それを実験的に検証していく、という科学研究に必要な能力と同じものです。第一印象や見た目が悪いというのも同じことです。見た目を根本的に変えることはできませんけど、知らない人に会うときには、清潔で適切な身なりをする、目があえば微笑む、といったように相手によい印象を持ってもらう努力はできるはずで、それは簡単にわかります。見た目の第一印象もコミュニケーションの一部であり、そういうことに気を配らないということは、実験においても細部に気が回らず、バカなミスを連発する可能性が高いことを意味すると思います。
一事が万事といいますが、普通の人間が理解できないような天才でない限り、コミニュケーションに難があり、第一印象が悪いというのは、科学的能力の低さと相関すると私の経験からは言えます。そして、30前までそうだった人が、多少指導したぐらいで、急激に成長して生まれ変わるなどということは現実には、起こりません。
悪い人ではないのはよくわかります。時間をかければそれなりになるかもしれません。しばらく逡巡はしたのですけど、今度は理性的に考えました。実験がヘタでもやる気があるのなら大変ですけど指導はするし、やる気はイマイチでも結果を出すのなら、それなりのやり方も考えます。でも、ポスドクなのに、実験がダメで、科学的研究の基礎が理解できておらず、やる気もない人はお手上げです。
よくわからないのは、小さな仕事とはいえ論文は書いているし、PhD時代の指導者からの推薦書は比較的強い、そういう人が実験のコントロールの取り方も理解できないのはどういう理由なのかということです。私にはマイクロマネッジメントはできないし、その時間もないので、PhDでありながら自分の頭で考えて行動して結果を評価するという作業ができない人を、イチから教育して使えるようにする、ということは不可能です。そもそも、そういう理由で技術補助員ではなくポスドクを雇ったのですし。
雇うのも大変でしたが、やめてもらうのも一苦労。規定上、三ヶ月は雇用を持続する必要があり、これまでの時間と労力がすべて無駄になり、私にとってはマイナスからやりなおしの上、やめてもらうために最長三ヶ月は意味もなく雇用しなければならなくなってしまいました。研究計画はすべて一旦、白紙です。手持ちのプロジェクトを見直して、見込み薄のものは全部カットし、最優先プロジェクトに関しては技術補助員に任せられるレベルになるまでは、自分でやることにします。やっと資金を工面して来てもらって、これからだ、と思っていたらいきなりコケて半年前のレベルに逆戻りで、ちょっとガッカリ。
しかし、今、ロスカットをためらって、彼が塩漬けにでもなれば、共倒れ必至です。私もすでにダメージを受けていますが、このままずるずるいくと、今後はそのダメージが蓄積するだけでなく、結局、相手も不幸になります。彼には別の場所がきっとあるでしょう。