百醜千拙草

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脱フィンランド化するフィンランド

2022-05-17 | Weblog
フィンランドは100年ちょっと前のロシアとの戦争で一年にわたる抵抗を続けた後、戦争終結の合意に至り、軍事的に中立化することで独立を守りました。このために少なくない犠牲を払いましたが、それ以来、国境を接するロシアからの軍事的脅威に対し、中立を守ることで安全を保ってきました。この大国に隣接する小国の安全保障上の戦略はフィンランド化と呼ばれ、当初、ウクライナもフィンランド化への提案がありました。その隣国スウェーデンも同様に中立を守ってきました。
しかし、両国とも、今回のロシアのウクライナ侵攻がおこってから二週間後には、ウクライナ政府支援を表明し武器などの供給を決めています。

そして、この度、プーチンとフィンランド大統領の会談のあとで、フィンランドは、正式に中立路線をやめて、NATOに加入する手続きを開始すると表明しました。スウェーデンも同様の意思表明。一方、NATO国であるトルコは、トルコ政府がテロ組織と見なし、何十年も紛争を繰り返しているクルド労働者党(PKK)を、北欧諸国が支援しているとして、この二国のNATO参加に懸念を表明。しかし、他の加盟国は概ね賛成、ということで、この二国は一年以内にはNATO国になるだろうと考えられています。

NATOは1949年、ソヴィエト連邦に対抗する形で設立された。ロシアはかねて、NATOを安全保障上の脅威と見なしており、フィンランドの加盟申請に「対抗措置」を取ると警告している。ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナがNATO加盟を示唆したことを、侵攻の理由の一つに挙げている。スウェーデンは第2次世界大戦中は中立を保ってきたほか、過去200年以上にわたり、軍事同盟への加盟を避けてきた経緯がある。 一方のフィンランドは、ロシアと全長1300キロにわたって国境を接している。これまではロシアとの対立を避けるため、NATO非加盟の方針を貫いていた。、、、

ということで、この両国の動きが意味することは明らかです。もはやロシアはかつての大国ではなく、ロシアに隣接するフィンランドでさえ、フィンランド化を維持しなくとも、NATO諸国の協力があれば、ロシアは安全保障上の脅威ではないと考えたということでしょう。これは、もしキエフが当初の予定通り数日でロシア軍によって陥落していたら、起こらなかったであろうと推測できます。つまり、侵攻後2週間の時点でこの両国は、ロシアは恐るに足らず、万が一侵攻された場合でもNATOの協力があれば撃退が可能であると判断したのでしょう。もう一つは、多分、この両国がプーチンは信用できない人間だと考えているのではないかな、と想像します。信用できない人間と協定を結ぶのは不可能ですから。

プーチンはこれでますます追い詰められました。NATOの東進を阻むどころか、逆にNATO勢力を増やす結果を産み、何も得るものがないまま撤退せざるを得ないような状況に追い込まれつつあります。

短期的には東ヨーロッパの平和を実現するであろうNATO勢力のさらなる拡大は、長期的にはかえってまずい状況を作り出すような気がします。バランスというものがあるわけですから。まず、ロシアが撤退したあと、東西融和が進むとは思えません。ならば、ロシアの豊富な天然資源に頼っている西側ヨーロッパ諸国は不便を被り、その輸出に頼っているロシア経済は打撃を受けるでしょう。自然と露中印の結びつきは強くなり、アメリカは今度は直接中国を相手にしないといけなくなる。アメリカも中露印が組めば、軍事的にかないませんし。また、仮にNATO諸国がロシアをもはや脅威でないレベルにまで押しやった場合にNATO諸国同士が平和に仲良くやれるとはとても思えません。今度は内ゲバがおこるでしょうし。そういう意味で90年体制(ベルリンの壁崩壊のときの東西合意)を維持する形でロシアと西側とのパワーのバランスが釣り合っているぐらいが長期的には良いのではないかと私は思います。適当に敵がいる方が身内はまとまりますし。
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