鴨長明「方丈記」に
こんな箇所がありました。
「もし、夜、静かなれば、
窓の月に故人をしのび、猿の声に袖をうるほす。
草むらの蛍は、遠く槙(まき)の篝(かが)り火にまがひ、
暁の雨は、おのづから木の葉吹く嵐に似たり。
山鳥のほろとなくを聞きても、父か母かと疑ひ・・・」
さてっと、私に興味深かったのは、
「山鳥のほろとなく」という箇所。
そういえば、西城八十の「旅の夜風」の歌詞には
「比叡」「加茂の河原」という地名が出てくる。
ということで、映画「愛染かつら」の歌として有名な
「旅の夜風」を引用。
花も嵐も踏み越えて
行くが男の生きる途
泣いてくれるな ほろほろ鳥よ
月の比叡を独り行く。
・・・・
加茂の河原に秋長けて
肌に夜風が沁みわたる
男柳がなに泣くものか
風に揺れるは影ばかり。
・・・・・
歌詞の引用は、このくらいにして、
筒井清忠著「西條八十」(中公叢書)には
この歌詞を引用したあとに、こうありました。
「『ほろほろ鳥』は、琵琶歌の『石童丸』の中にある
『ほろほろと鳴く山鳥の声聞けば、
父かぞとおもふ、母かぞとおもふ』
という古歌が胸に浮んだので、
それを具体化したものであった。
高野山での石童丸と刈萱道心の邂逅を想ったのである。
・・・」(p227~228)
それとは知らず、
「花も嵐も踏み越えて・・・」の西城八十の歌詞が
琵琶歌「石童丸」へとつながり、
鴨長明「方丈記」へとつながっておりました。
浅見和彦校訂・訳「方丈記」(ちくま学芸文庫)には、
和歌のつながりが興味深くたどられます(p190~191)。
「 山鳥のほろほろとなく声聞けば
父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ(伝行基菩薩)
をふまえる。
山深み馴るる鹿(かせぎ)のけぢかさに
世に遠ざかる程ぞ知らるる(「山家集」1207)
という伝行基歌、西行歌をほぼ全面的に取り組み、
つなぎ合わせ、『方丈記』独特のリズム感のある
行文の創出に成功しているのである。・・・」(p191)
さてっと、紅葉の葉を踏み越えてゆく季節となりました。