本を読みながら、ああ、このページはまたいつか思い出す
かもしれないなあ。そんな箇所に出くわすことがあります。
こういう箇所は、気になって思い浮んでも、もう探しだせなくて、
時間がたてばたったで、どこにあったかもわからなくなってしまう。
うん。そこを先回りして、当ブログに備忘録がてら引用することに。
阪田寛夫著「まどさん」の「にじみ出す液」という章にありました。
「私は、まどさんの『やぎさんゆうびん』の歌を思い出した。
相手から来た手紙を読まずに食べてしまっては、
『さっきの手紙のご用事なあに』と互いに返事を出し続けている
白山羊と黒山羊の歌である。」(p81)
はい。阪田さんは、詩を引用しております。
「 しろやぎさんから おてがみ ついた
くろやぎさんたら よまずに たべた
しかたがないので おてがみ かいた
さっきのてがみの ごようじ なあに
(引用者注・現行のものは、更に行割りと丁寧語に若干異同がある)
二節は『しろ』と『くろ』をただ入れ換えさえすれば
いいようになっている。この歌詞は團伊玖磨氏の作曲によって、
昭和27年NHK ラジオ幼児の時間の八月の歌として放送された。
こんど立入って経過を詳しく調べたのは、経過自体、
このユーモアがまどさんの内部から絶えず滲み出る
ものの自然な帰結であることをしめしているからだ。
昭和27年6月10日が、NHK から言われた原稿の締切日で、
二週間前の日誌にこんなことを書いている。
1952年5月28日
児童文学のツラサは作品にモラルを盛るほどの
悪人にならねばならないことだ。
・・・・・・・・・・・
自分でやりもしなかった、また現在ならなおさら
やりもやれもしない、おそろしくいいことを、
さあやれさあやれというだけのことだから、
だれも文句をつけてくれもしないし
ここで途切れている。突然始まって尻切れとんぼだから、
どんな状況でこれを書きなぐったのか、よく分からない。
かなり、自分にも腹を立てているようだ。まどさん自身が
当時保育雑誌の編集者として、『大人』の配慮の偽善性に、
反吐をはく思いを持っていた感じだけはわかる。
ともあれ『やぎさんゆうびん』は、このようにして在来の、
またその後の、童謡のわくにちょっと納まらない完璧な作品になった。」
(p83~84・単行本)
ちなみに阪田さんの、この本では決定稿になる前の詩、
昭和14年6月初出の原形の詩も引用されております。
最後に、その初出の詩を引用してみることに。
オヤヤギ カラ キタ オテガミ ヲ
コヤギ ハ メエメエ タベタ カラ
『 ゴハン ヂヤナクテ オテガミ モ
クダサリヤ イイノニ カアサン ハ 』
コヤギ カラ キタ オテガミ ヲ
オヤヤギ メエメエ タベテ カラ
『 ゴハン ヂヤナクテ オテガミ モ
クレレバ イイノニ ウチノコ ハ 』
ちょっとしたキッカケで、思い浮かんできそうな童謡。
ちょくちょくは思い出さないけれど。なにかは知らず、
ああそうかと、思い出しそうな秘めた箇所なのでした。
わたしはといえば、内容を反芻せず、とりあえず読んだ。
『よまずに たべた』わけじゃなく、咀嚼せずに読んだ。
『やぎさんゆうびん』聞くたび、この文が思い浮ぶかな。