和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

季節感と、掛け軸と。

2021-05-02 | 枝葉末節
本をひらきながら、ときどきこの箇所は、
忘れたくないなあと思うことがあります。

しばらくは、それでもどこにあったのか、
思い出せるのですが、しばらくを過ぎて、
本がどこにあったのかも覚束なくなる頃、
その時には、きれいさっぱり忘れてます。
うん。そういう際に備忘録はありがたい。
道案内の道標みたいで、嬉しくなります。

はい。この箇所も道標を立てておきたくなりました。
青木玉対談集「祖父のこと 母のこと」(小沢書店・1997年)
対談の最後は、杉本秀太郎氏とでした(1997年)。
題して「西の育ち、東の育ち」。
青木玉は幸田露伴のお孫さん。
東京と京都との住まいのことが出てきます。

杉本】 ・・・・青木さんのお家でも、・・
  住まいにまつわる季節感とか、約束ごととかを
  大切に暮らしていらっしゃるでしょう。

青木】 私どもは戦災でそうしたものを一切、失いましたので、
   結構なものは何一つございません。専ら生活用品の
   夏冬の座布団、お手拭き、お茶碗、花は和花・洋花、
   その時どきでございます。 (p238)


この会話のまえなのですが、京町屋の有形文化財に指定された
杉本家のことが話題になっておりました。
ああ、この箇所は忘れたくないなあ。と思った箇所です
以下に引用しておきます。

青木】 ・・・・掛軸も暦に合わせておかえになりますでしょう。

杉本】 月に合わせてかえますね。・・・・
   春夏秋冬を大きく分けますと、四つですが、
   葵祭りだとか、祇園祭りとか、お節句だとか、
   折り目節目に床にかける軸があります。

   京都は、『古今集』の昔からそういう年中行事は
   ずっとつづいているように思います。
   床の間の掛け物で季節感がこちらに刻まれますしね。

青木】 季節と決まりがぴたっと合っているその快さでございますね。
   あの時にはあの掛け物があったから、あの方はいついらしたとか、
   繋がってまいりますでしょう。また、
   それに合わせて何の花を生けようとか。

杉本】 五月になって卯の花が咲く頃になると
    ほととぎすの鳴き声も一度か二度は聞きますけれど
    ・・・・・

   その頃になると、ほととぎすの軸がかかりますね。
   卯の花といえばほととぎす、ほととぎすといえば卯の花
   というような関係を作ったのは『古今集』の次の歌です。

   ほととぎす我とはなしに卯の花の
        憂き世の中になきわたるらむ

   まあ、季節に合わせて軸をかえるのも一種の楽しみ
   という部分はありますけれど、手間はかかります。
   不便を楽しむ気持がなければ成り立たないことですね。


こうして、最初に引用した会話へとつながってゆきます。
その箇所、もう一度、繰り返しておくことに。

   青木さんのお家でも、そうした住まいにまつわる季節感とか、
   約束ごととかを大切に暮らしていらっしゃるでしょう。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« こんなもの書きよるね。 | トップ | 若き杉本秀太郎と、小林秀雄。 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

枝葉末節」カテゴリの最新記事