今年の4月に500円で買ってあった古本
金子光晴著「詩集 若葉のうた」(勁草書房)。
副題には、「孫娘・その名は若葉」。
うん。この本のなかに、詩『若葉よ来年は海へゆこう』
がはいっているので、詩集としてひらいてみたかった。
普通の単行本サイズで全157ページ。
函入りで、カバーをはずせば、うすいグリーンの布張り。
カバーのデザインもグリーンとうすいブルーとが交互に
配色されていて若葉ごしに青空が見えているような印象。
函は、なんていったらよいのか、
家でいえば、コンクリートのうちっぱなしのように、
函は、段ボールの函のまま。そこにギフト用の、のしが
貼ってあるような、その熨斗(のし)紙に題が記されてる。
「増補詩集 若葉のうた 新版」という題。こうもあります。
題字 金子光晴
装画 森 若葉
装画 森 夏芽
装丁 高橋 弘
小さい女の子の夏休みの宿題の絵や版画みたいなのが
函をみると3枚さりげなくプリントされておりました。
うん。もうすこしつきあってください。
私が買った古本は、増補版。
最後をひらくと、こうあります。
詩集 若葉のうた 増補新版
昭和42年4月20日 第一版第一刷発行
昭和49年1月10日 増補版第一刷発行
昭和55年8月20日 増補新版第一刷発行
ということで、この古本の詩集の最後のほうには
跋(増補版によせて) 金子光晴
という文がついておりました。
はじまりを、引用してみます。
「 『若葉のうた』を補筆、改装して、もう一度出すことになった。
『若葉のうた』は出した当時、世のたくさんな人たち、
とりわけお母さんたちにたのしんでいただいた。
それに比例して、むづかりやの批評家からは、
『そんなわかりやすい詩を書いたら、権威が台なしではないか』
と叱責された。
いづれも僕への親しみを通してのことなので、
ありがたくうけ止めて置かねばならない。
しかし、詩が本来、人の心と心とをつなぐ言葉の芸術であり、
この世界の理不尽をはっきりと見分けられるためのジムナスである以上、
愛情を正常にとらえ、愛情のもつエゴイズムと、その無償性を示すことは、
芸術、特にここでは詩のもつ重大な意義と僕は考えている。・・・・・ 」
このあとに増補版を出すまでの、時間の経緯が語られておりました。
「・・その間に、若葉の妹夏芽がうまれすくすく大きくなり、
ことしは若葉が小学校の二年生になり、夏芽も幼稚園の二年生にすすんだ。
この姉妹のコンビは、我家の貧しい雰囲気に、薔薇の匂をふりまき、
笑いのリトムを添えている。ひろいあげる取材も数多いわけだが、
祖父は、気力がうすれ、祖母はまだ病身を、床に横たえて
くらしているという状態で・・続篇ができることもあてにならない
ことなので、新しく増版されるこの機会に、
二人になった孫たちをテーマにした、まだなまのままで、
推敲の及ばない品物・・を添えて出すことにした。・・・ 」
( p144~146 )
ということで、最後に引用するのは、増補詩集の最後に載せてある詩。
旅
若葉と夏芽はときどき
派手は喧嘩をするが、
小さい夏芽が、いつでも
敗けているとは限らない。
でも、彼らには喧嘩もあそび。
殴るのも、引掻くのもあそび。
負けない根性の意地張りの夏芽は、
あいての仕掛けた通りを返えす。
犬と猫のような姉妹が、
子供部屋で居なくなったやうに
しづかに話していることもある。
姉らしく教えたり、妹らしく素直にきいて。
『おぢいちゃん、いい人?
それとも、わるい人?』と妹。
『どっちか、夏芽が考えてごらん。』
『そとへゆくとお土産をくれるから
やっぱりいい人。お姉ちゃん。』
ふと耳に止めて老人はほくほく顔。
ママの苦情も忘れて、リカちゃんか。
それとも色鉛筆と帳面にしようか。
二三日前から、姉妹は部屋の隅で、
額を寄せてひそひそと相談してゐる。
なにかたいへんな企らみごと、
なにかすばらしいおもいつき?
だが、なにごともなく日は過ぎて、
忘れたころになって、ママが見付けた。
玄関の上りがまちに並べた学校鞄や
紐でしばった空箱や風呂敷包。
ひらいてみると、歯楊枝(ぶらし)。お手玉、
着換え人形など。
『こんなものどこへもってくの?』と、
ママがきくと、
姉妹は 口を揃えて言う。
『ふたりで、旅行するの』と若葉。
『ゆく先は、ミュンヘン』と夏芽。
コメントどうもありがとうございます。
金子光晴の詩は、読んだことがないのですが、
この詩集ならば、お気楽にひらけるのでした。
本の装丁が味わえるので、手にしてよかった。
うん。素敵な絵本と出会ったような感じです。
それを伝えたくて装幀の話からはじめました。
言葉をきれいにラッピングして、のしを付けて、
ひらけば、そこに詩があって。そうして、
ブログで引用すれば、すぐにコメントが届いて。
はい。こんな日あったらいいな。
という一日になる気がしました。
コメントありがとうございます。
わかりやすい詩ですね。
愛情をこめて
孫娘さんたちのやり取りを
ニコニコしながら 聞いている
おじいちゃんの姿が想像できます。
私には 孫はいないし
姉と二人
こんなに仲良くもなかったようだし
祖父が 見守ってくれたこともないけれど
それでも
じんわりと 温かく
伝わってくるものがあります。
さすが ですね。