もう20年ほど昔のこと、母校の秋田大学耳鼻咽喉科医局に在籍していた頃、医局の派遣で志津川町立病院(現在の南三陸町公立志津川病院)に勤務していたことがあった。志津川湾は銀鮭の養殖場が広がる静かな海で、医局の先輩とともに船で釣りに出かけたことがあったが、クーラーボックスに入りきらないほどのアイナメとカレイの大漁だった。あの病院(新築されていたようだ)がテレビに映し出された時は驚いた。4階まで津波に襲われ、かろうじて助かった患者さんたちを屋上からヘリで救助する映像が映っていた。自分の目で見に行ってみたいとずっと思っていた。
妻が宿泊施設の状況をインターネットで調べたところ、意外にも松島、塩釜あたりは宿がとれた。しかも安い。復興支援の人たちのために格安の料金で提供しており、あの松島でさえ2人で1泊2食付で1万5千円という料金だった。可能ならば南三陸町まで、と思っていたのだが、連休中は自衛隊や復興支援の車両優先のために一般車は控えて欲しいとのニュースが流れ、三陸はあきらめて仙台周辺に視察に行くことにした。
4月29日(1日目)
仙台空港周辺を視察して塩釜に宿泊する予定で8時自宅を車で出発。中央道から圏央道に入り、終点で降りて一般道を通って久喜インターから東北道に乗ったが、ここで既に渋滞が始まる。この日は高速道路1,000円の割引料金だったため、東北地方に向う車がたくさんあった。ボランティア支援に行くのだろうか、たくさんの荷物を積んだ車も多く見かけた。私たちの車も念のためのテント泊装備と避難所支援用水2リットル×2ダース、軍手30足、長靴、犬猫用餌大袋を積んでいる。渋滞は郡山まで続き、福島で若干緩和したかと思ったら仙台手前からまた渋滞。結局仙台南道路に入った頃にはもう7時となり、真っ暗になってしまった。そのまま塩釜の宿泊地、スマイルホテルに直行することになる。仙台南道路から見る東側(海側)の景色は、運転しながらだったのでちらりとしか見られなかったが、暗がりの中でもガレキや倒木が散らかっているのが見えた。
塩釜市内は意外にも道路はすっかりきれいになっており、むしろその手前の多賀城市のほうが壊れた家やガレキが多く見られた。ホテルは全く普通に営業されていたが、夕食は提供できず外食となる。塩釜の繁華街にある寿司屋で夕食をとったが、その店も床上70~80cmほど海水に浸かったそうで、柱に浸水の跡が残っていた。漁業はまだ再開されていないため、北海道や青森からネタを取り寄せているという。塩釜や松島は沖合にある島々のおかげで津波の勢いが減弱され、水には浸かったものの被害は比較的少なくて済んだと店主さんが話してくれた。食事の後に塩釜駅周辺や避難場所となっている高台の神社を散策してみたが、泥につかって再開できない店があるものの、倒壊している家はほとんど見かけられなかった。
4月30日(2日目)前編
宿泊したスマイルホテル塩釜は500円でバイキング形式の朝食で、都内の普通のホテルに全く劣らない、被災地とは思えないような十分過ぎる朝食を提供していただいた。そして、3年前の職員旅行の際に立ち寄った塩竃神社に行ってみる。何事も無かったかのように桜が咲き、庭園から見下ろす塩釜湾は至って穏やかに見える。ここは高台なので津波の被害は全く受けなかったが、地震の影響で倒れた灯篭が何本か見られた。
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塩竃神社のしだれ桜 何事も無かったかのように桜が咲く。
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神社の庭園から見下ろす塩釜湾は平穏に見える。
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天然記念物塩竃桜 三十八重くらいの花弁をつけるらしい。まだ咲き始めだった。
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地震で倒れた灯篭
次に昨日走った仙台南道路を南下して仙台空港に向う。前日は暗くて良く見えなかったが、昼間走ってみるとその津波の凄まじさがわかる。名取川周辺は遥か彼方の砂防林から流れ着いた松の木が横たわり、田んぼの中は瓦礫や車、船などが散乱していた。仙台空港駐車場に車を止めて空港を見学させてもらうが、ひとまず復旧して飛行機は一部だけ飛んではいるものの、空港内の照明は暗く、電車はまだ復旧しておらず、使えるロビーも一部だけだった。外の花壇に植えられた木や花は津波による塩害で全て枯れてしまっていた。
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仙台空港 花壇の木や花は塩害で枯れてしまっている。
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電車ホームへのエスカレーター。津浪の及んだ高さがわかる。
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空港前を流れる川にかかる橋は、欄干が壊れている。
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川の中と土手は瓦礫だらけ
橋を渡って海岸まで歩いてみた。このあたりは住宅街だったようだが、家は跡形も無く壊れて瓦礫と化しており、残った家も損壊著しく、とても住めるようなものではなかった。電信柱はことごとく折れ曲がり、セメントの中の針金が露出していた。ボコボコになった車があちらこちらに散乱し、砂防林の松が家に突き刺さっていた。これだけ破壊されるとボランティア活動というようなレベルではなく、もう重機で片付けるしか無いのであろう。
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津浪で流された車
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粉々になった家
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立っているのが不思議なくらいに壊れた家
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砂防林から流れ着いた大きな松の木が横たわる
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倒れた電柱は内部の針金が露出している
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家に突っ込んでいる車。右手に見えるのが仙台空港。
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砂防林付近にあった家は跡形も無い
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津浪でなぎ倒された砂防林の松
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破壊された堤防と砂防林
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海岸にはプロパンガスのボンベが横たわっていた
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砂防林にあった住居の跡。あの津波にあっても花は咲く。町も必ず復興する。
仙台空港を後にして今度は津波の被害が甚大だった名取川南側の名取市に向った。海岸沿いの道が復旧されていて通行可能と工事関係者の方に聞いたので、そちらの道を行ってみると、道の周囲にはあちらこちらに瓦礫が散乱していた。さらに進むと住宅街であったと思われる場所に出た。田んぼと思われる場所はまだ海水が引いておらず、腐った塩水の臭いが漂い、船や自動車が散乱していた。海は遥か2~3km向うだというのに、道路脇の住居に大きな魚船が乗り上げており、津波の凄さを伺わせた。
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名取市。田んぼと思われるが、まだ海水が引いておらず、腐った塩水の臭いがする。
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住宅地に押し流された漁船。右に停まっているのが私の車。
さらに道に迷いながらも、名取川を越えて仙台市若林区の被災地を巡礼した。テレビにも良く登場する閖上(ゆりあげ)地区だ。一部災害復旧用車両しか入れてくれない場所があり、そこを迂回して日和山富主姫神社という小さな高台に行ってみると、そこには塔婆と花が手向けられていた。そこから見る閖上地区の様相は絶句するほど凄まじい。もともとは住宅地だったはずなのに、住居は土台を残すだけで跡形も無く消失していた。散乱する瓦礫のほかは何も無い。少し内陸に入った田んぼと思わしき場所には、遥か彼方の砂防林から流されてきた松の木が点々と横たわっていた。
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名取市閖上(ゆりあげ)地区にある日和山富主姫神社
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神社の高台には花束が手向けられていた。その向こうに見る景色は・・・絶句、跡形も無い。
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名取市閖上地区。ここに住居があったとは思えないほどに跡形も無い。
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遥か彼方に見える砂防林から流されてきた松が横たわる。
(2日目後編に続く)
妻が宿泊施設の状況をインターネットで調べたところ、意外にも松島、塩釜あたりは宿がとれた。しかも安い。復興支援の人たちのために格安の料金で提供しており、あの松島でさえ2人で1泊2食付で1万5千円という料金だった。可能ならば南三陸町まで、と思っていたのだが、連休中は自衛隊や復興支援の車両優先のために一般車は控えて欲しいとのニュースが流れ、三陸はあきらめて仙台周辺に視察に行くことにした。
4月29日(1日目)
仙台空港周辺を視察して塩釜に宿泊する予定で8時自宅を車で出発。中央道から圏央道に入り、終点で降りて一般道を通って久喜インターから東北道に乗ったが、ここで既に渋滞が始まる。この日は高速道路1,000円の割引料金だったため、東北地方に向う車がたくさんあった。ボランティア支援に行くのだろうか、たくさんの荷物を積んだ車も多く見かけた。私たちの車も念のためのテント泊装備と避難所支援用水2リットル×2ダース、軍手30足、長靴、犬猫用餌大袋を積んでいる。渋滞は郡山まで続き、福島で若干緩和したかと思ったら仙台手前からまた渋滞。結局仙台南道路に入った頃にはもう7時となり、真っ暗になってしまった。そのまま塩釜の宿泊地、スマイルホテルに直行することになる。仙台南道路から見る東側(海側)の景色は、運転しながらだったのでちらりとしか見られなかったが、暗がりの中でもガレキや倒木が散らかっているのが見えた。
塩釜市内は意外にも道路はすっかりきれいになっており、むしろその手前の多賀城市のほうが壊れた家やガレキが多く見られた。ホテルは全く普通に営業されていたが、夕食は提供できず外食となる。塩釜の繁華街にある寿司屋で夕食をとったが、その店も床上70~80cmほど海水に浸かったそうで、柱に浸水の跡が残っていた。漁業はまだ再開されていないため、北海道や青森からネタを取り寄せているという。塩釜や松島は沖合にある島々のおかげで津波の勢いが減弱され、水には浸かったものの被害は比較的少なくて済んだと店主さんが話してくれた。食事の後に塩釜駅周辺や避難場所となっている高台の神社を散策してみたが、泥につかって再開できない店があるものの、倒壊している家はほとんど見かけられなかった。
4月30日(2日目)前編
宿泊したスマイルホテル塩釜は500円でバイキング形式の朝食で、都内の普通のホテルに全く劣らない、被災地とは思えないような十分過ぎる朝食を提供していただいた。そして、3年前の職員旅行の際に立ち寄った塩竃神社に行ってみる。何事も無かったかのように桜が咲き、庭園から見下ろす塩釜湾は至って穏やかに見える。ここは高台なので津波の被害は全く受けなかったが、地震の影響で倒れた灯篭が何本か見られた。
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塩竃神社のしだれ桜 何事も無かったかのように桜が咲く。
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神社の庭園から見下ろす塩釜湾は平穏に見える。
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天然記念物塩竃桜 三十八重くらいの花弁をつけるらしい。まだ咲き始めだった。
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地震で倒れた灯篭
次に昨日走った仙台南道路を南下して仙台空港に向う。前日は暗くて良く見えなかったが、昼間走ってみるとその津波の凄まじさがわかる。名取川周辺は遥か彼方の砂防林から流れ着いた松の木が横たわり、田んぼの中は瓦礫や車、船などが散乱していた。仙台空港駐車場に車を止めて空港を見学させてもらうが、ひとまず復旧して飛行機は一部だけ飛んではいるものの、空港内の照明は暗く、電車はまだ復旧しておらず、使えるロビーも一部だけだった。外の花壇に植えられた木や花は津波による塩害で全て枯れてしまっていた。
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仙台空港 花壇の木や花は塩害で枯れてしまっている。
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電車ホームへのエスカレーター。津浪の及んだ高さがわかる。
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空港前を流れる川にかかる橋は、欄干が壊れている。
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川の中と土手は瓦礫だらけ
橋を渡って海岸まで歩いてみた。このあたりは住宅街だったようだが、家は跡形も無く壊れて瓦礫と化しており、残った家も損壊著しく、とても住めるようなものではなかった。電信柱はことごとく折れ曲がり、セメントの中の針金が露出していた。ボコボコになった車があちらこちらに散乱し、砂防林の松が家に突き刺さっていた。これだけ破壊されるとボランティア活動というようなレベルではなく、もう重機で片付けるしか無いのであろう。
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津浪で流された車
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粉々になった家
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立っているのが不思議なくらいに壊れた家
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砂防林から流れ着いた大きな松の木が横たわる
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倒れた電柱は内部の針金が露出している
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家に突っ込んでいる車。右手に見えるのが仙台空港。
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砂防林付近にあった家は跡形も無い
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津浪でなぎ倒された砂防林の松
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破壊された堤防と砂防林
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海岸にはプロパンガスのボンベが横たわっていた
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砂防林にあった住居の跡。あの津波にあっても花は咲く。町も必ず復興する。
仙台空港を後にして今度は津波の被害が甚大だった名取川南側の名取市に向った。海岸沿いの道が復旧されていて通行可能と工事関係者の方に聞いたので、そちらの道を行ってみると、道の周囲にはあちらこちらに瓦礫が散乱していた。さらに進むと住宅街であったと思われる場所に出た。田んぼと思われる場所はまだ海水が引いておらず、腐った塩水の臭いが漂い、船や自動車が散乱していた。海は遥か2~3km向うだというのに、道路脇の住居に大きな魚船が乗り上げており、津波の凄さを伺わせた。
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名取市。田んぼと思われるが、まだ海水が引いておらず、腐った塩水の臭いがする。
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住宅地に押し流された漁船。右に停まっているのが私の車。
さらに道に迷いながらも、名取川を越えて仙台市若林区の被災地を巡礼した。テレビにも良く登場する閖上(ゆりあげ)地区だ。一部災害復旧用車両しか入れてくれない場所があり、そこを迂回して日和山富主姫神社という小さな高台に行ってみると、そこには塔婆と花が手向けられていた。そこから見る閖上地区の様相は絶句するほど凄まじい。もともとは住宅地だったはずなのに、住居は土台を残すだけで跡形も無く消失していた。散乱する瓦礫のほかは何も無い。少し内陸に入った田んぼと思わしき場所には、遥か彼方の砂防林から流されてきた松の木が点々と横たわっていた。
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名取市閖上(ゆりあげ)地区にある日和山富主姫神社
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神社の高台には花束が手向けられていた。その向こうに見る景色は・・・絶句、跡形も無い。
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名取市閖上地区。ここに住居があったとは思えないほどに跡形も無い。
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遥か彼方に見える砂防林から流されてきた松が横たわる。
(2日目後編に続く)
閖上は「仙台市」ではなく「名取市」です。