帆船日本丸は、姉妹船海王丸とともに昭和3年の第55帝国議会で予算案が可決し、英国のリース市のラメージ&ファーガソン社へ発注された。
ラメージ&ファーガソン社は設計と鋼材の切り出しと部品の調達を行い、全て日本へ輸送し、組み立ては 神戸川崎造船所で行った。昭和5年3月31日に竣工・引渡しが完了した。
すべての部品は鋼材に至るまで英国製であり、初めの帆走・操舵技術は英国人教官の直接指導によったと思われる。上の左端の写真に示したように鋼材の切削・加工を行ったスキニンググローブ社(England)の名前が今でも明記してある。
上の2番目の写真はラメージ&ファーガソン社設計製作の人力で舵を動かす大型歯車セットであり、現在も人力だけで舵をとる。3枚目と4枚目の写真は全てラメージ&ファーガソン社の設計図通うりくみ上げた結果である。
従って、余談ながらこの帆船は英国文化の文化遺産的な性質が濃厚である。
太平洋往復航海中は、完全に英国式訓練であり、まず英語で部品名や帆やヤードの名前を覚えることが徹底された。
上の写真の1枚目と2枚目は横桁であるヤードの専門用語とセイルを操るロープ類の専門用語である。すべて英語であり、現在も忠実に英語で呼ばれている。3枚目は帆を操るロープ類が絡まらないように揃えてある様子で、これも英国式整理方法である。
太平洋上での訓練生は全ての部品・ロープ類は英語の専門用語で覚え、号令もこの専門用語で発せられた。その訓練は真夜中の総員お起し、ロープの専門用語を呼称し、暗夜の中でも正確に走りそのロープを掴む訓練を繰り返したそうである。当直は人間の集中力が続く4時間交代で行われた。
起床は6時30分。まず椰子の実を輪切りにしたもので全員甲板磨きをする。
上の右2枚の写真は船倉にしまってある椰子の実と、それを輪切りにした断面を示す。
この椰子の実による甲板磨きだけが日本人の発明だそうだ。チーク材の甲板と椰子の油の相性がよく甲板が綺麗に保持できる。英国では椰子の実の代わりに脂付きのモッブを用いる。現在の日本丸の大西船長によると訓練で一番重要なのは甲板磨きであり、それが終わってから歯磨き・洗顔、朝食と日常の日課へと続くそうである。
甲板磨きで、船を愛する精神が湧き、操船が慎重になり、結果として危険防止、無事故へ続くそうだ。従って、日本丸は昭和5年の進水以来、昭和59年の半引退まで無事故であった。
(終わり)