風薫る5月とはよく言ったものと感心する。観音崎の浜ぞいの遊歩道を歩く。岸辺を洗う潮騒が穏やかに響き、海のかなたに房総の山々が青く霞んでいる。
遠くの小山の遥か上のほうに観音崎燈台が青空に聳えている。純白の塔が輝いている。急いで一気に登らないで、磯の草の上に寝転ぶ。
「不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて 空に吸われし十五のこころ」を思い出す。
十五歳ではなく七十歳の心が潮騒にさそわれながら海の上の空に吸われてしまう。40歳のころ南部藩の城跡に寝転んだとき家人がこの啄木の歌を教えてくれた。
観音崎燈台は駐車場から磯道をかなり歩いて、更に小山の急坂を登るので以前は一回しか行ったことが無い。しかし引退後の今は時間がゆったりとある。
磯に沿って歩くのが楽しい。急坂も最近は緩やかな階段に作りかえてある。ゆっくり登っても5分で燈台に着く。中の暗い螺旋階段をのぼり太平洋をしばし眺める。
明治2年に日本で始めての西洋式燈台としてフランス人技師によって作られた。
暗夜に燈台の光を見る船上の操舵手は何処の燈台か瞬時に分かる。全国の燈台の光り方が違うからである。観音崎燈台は15秒間に2回光ると決まっている。
船舶操縦2級免許試験に海図の読み方と燈台の光り方が出題されたことを思い出す。今年は外洋航海も出来る1級免許に挑戦してみようと思いつつ燈台を降りる。(終わり)
撮影日時:5月27日午前12時頃、 撮影場所:神奈川県、三浦半島、観音崎にて