人間は勝手なものです。都会に住んでいる人は山の森や林などの自然環境の保護を叫びます。しかしその結果、野山に鳥や獣が増えます。そうしてその周辺の農作物が毎年のように深刻な被害を受けます。
とくに過疎地の零細な農家にとっては移住を考えざるを得ません。それが過疎化の一つの原因になっているのです。
戦後70年、日本の社会は大きく変化しました。それと関連して日本の山々の動物の世界も様変わりをしたのです。甲斐駒岳の麓の山林の中に小屋を建てて40年間、その山林に通ってみるとこの動物の世界の大きな変化を実感できます。
1974年から1995年頃までの20年間は大型の野生動物は見たことがありませんでした。
リスや可愛いカヤネズミやキジは何度も見ました。特にキジのケーン、ケーンと啼く声は何故か哀愁があり山小屋の生活を淋しくさせたものでした。
ところが1995年頃からそれらの小型の鳥獣の姿が見えなくなりサルやイノシシが跋扈するようなります。サルは大群で雑木林のなかを遊びまわっていて、私と会っても平気です。10m以内には絶対に近づきませんが私を無視しています。
一番目から三番目までの写真は私自身が撮ったサル、キツネ、鹿の写真です。そして四番目の写真は群馬県のHPからお借りした夜のイノシシの写真です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/e5/dabf844c7aa38d67307cfb1ddea9429d.jpg)
イノシシも沢山居ますが姿は見えません。しかし山小屋の周囲をメチャクチャに堀り荒らします。地中のミミズや蝉の幼虫を掘りだして食べるようです。イノシシの掘った穴を埋め戻すのが大変なのです。
そのうち2000年頃から鹿も増えて道路を横切って跳んでいくのを見かけるようになりました。鹿が増えるとヤマヒルが増えるらしくて小屋の中にヒルが侵入して来ます。夜寝ている間に足の血をさんざん吸われ、蒲団が血だらけになったこともあります。部屋の四隅に大量の塩を撒いたらヒルが侵入しなくなりました。
イノシシや鹿、そして猿による農作物の被害が深刻になったのは1995年以後のことのように記憶しています。
山小屋の近くの農家は水田を持っていない零細農家です。イノシシと猿の被害は深刻です。畑を放棄して移住した人もいたようです。当時は武川村という村でしたので役場の予算で農地の回りを金網で囲い電流を流していました。
ところが猿の大群やイノシシの群れはその金網を突破します。被害を防止するのは至難なことなのです。
ある時はサルの大群が私の目の前で高い金網の下を行ったり来たりしているのです。金網の下をイノシシが夜に掘った通路を昼間はサルが利用しているようです。
私は山に行ってサルや鹿を見ると可愛いと思います。自然の豊かさを感じ楽しいのです。ですからサルや鹿が増えて山小屋も一層楽しくなりました。
しかし農家の鳥獣被害を考えると複雑な気持ちになります。
ある時、全国の鳥獣被害をネットで調べてみましたら山沿いの県や市町村が大変苦労していることが分かりました。
一例として5番目と6番目の写真に平成23年度の群馬県の約10億円余の鳥獣被害の内訳を示します。出典は、https://www.pref.gunma.jp/06/f0910021.html 群馬県 - 特集 野生動物から農林作物を守るからです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/bc/4dc891f9a577c89e4f70363cd9ce19b6.jpg)
群馬県では野生動物による農林業への被害が県内各地で発生し、深刻な状況が続いているのです。耕作放棄地や野生動物の生息数が増加し、人と野生動物とのすみ分けができないことが、原因の一つになっているのです。被害は、キャベツやトウモロコシなどの野菜を中心に、コンニャクなどの工芸作物や果樹、イネ、イモ類など、さまざまな作物に及んでいます。またスギやヒノキの樹皮が剥がされ、幹が傷付けられるなど、森林の植栽木への被害も増加しています。23年度の被害額は、約10億2200万円に上りました。
このような鳥獣被害は全国の都道府県で起きているのです。
注意すべきは統計表の平均的な数字ではなく、被害が山に近い過疎地に集中する傾向があることです。このことが鳥獣被害の悲劇性を増大しているのです。
さてこの記事の題目に、「行き過ぎた自然環境保護が深刻な鳥獣被害をもたらす」と書きましたがこの表現は誤解をもたらします。鳥獣被害の増加の原因は環境保護だけではないのです。
まず安い輸入木材の輸入で国内の林業が成り立たなくなりました。従って山に入りチェーン・ソウのけたたましい音が深山に響かせる人がいなくなりました。その音を嫌がる野生動物が安心して増えます。
昔は猟犬を駆ってシノシシや鹿を打ち殺す猟師が沢山いました。しかし彼等も高齢化し山の猟が途絶えたのです。現在の若者には山の猟は厳しすぎて趣味としては敬遠されるのです。
その上もっと重要な原因は苦労して山郷で鳥獣被害の防止をするより都会へ移住して別の職業につたほうが生活が安定するという事情です。
このように鳥獣被害の増大の原因は複雑で、なかなか一朝一夕に解決が出来ない困った問題なのです。
日本の経済成長は多くの人々を幸せにした事実は間違いありません。しかしその一方で苦しみ不幸になった人々がいるのも事実です。本当に世の中は難しいものだと考えさせられます。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈りいたします。後藤和弘(藤山杜人)