おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「ヒトラーが寵愛した銀幕の女王」(アントニー・ビーヴアー)白水社

2013-08-06 19:39:08 | 読書無限
 副題「寒い国から来た女優オリガ・チェーホワ」。原題は「The Mystery of Olga Chekhova」。邦題は内容をおおげさにしすぎている感じ。「ヒトラーが寵愛した」ということにとらわれると、少し期待外れ。
 二重スパイ(ナチスドイツとソ連との)という存在であったのではないか? という疑惑が根強く残る女優「オリガ」の実像に迫る。
 第二次世界大戦(独ソ戦)をはさむ戦前戦後の激動する世の中に翻弄されながらも、自らの立ち位置を自覚し、生き抜いてきた女優オリガ。
 帝政ロシア時代に生まれ、「桜の園」や「三人姉妹」などチェーホフ(オリガにとってはそのチェーホフは叔父に当たる)作品を主に上演してきたモスクワ芸術座の舞台女優。ロシア革命の混乱の中、ドイツ(もともとドイツ人の血を引く)に亡命、ドイツ語を学び女優として活動するオリガ。
 無類の映画好き(映画が大衆に与える抜群の効果を知るゲッペルスや総統ヒトラー・・・)のナチスドイツの主要メンバーとの関わり。ただヒトラーの「寵愛」とまではいかず、せいぜいお気に入りくらい。あるいはソ連との関係で利用価値があると判断された?
 表紙の、ヒトラーの隣に座る「女優」然とした写真が、その後のオリガの複雑な運命(二重スパイとしての身の過ごし方?)を象徴していく。
 ロシア革命、赤軍白軍との激しい内戦、スターリン時代の大粛清、独ソ開戦、ドイツ(すでにナチス体制)への亡命、そこで得た確固たる女優の地位。そして、一枚の写真が招く数奇な人生。
 同姓同名の人物が登場したり、親戚関係がわかりにくく取っつきにくい出だしだったが、次第に人物関係がはっきりしてくると、史実を検証しながらの展開で、テンポよくどんどんと物語が進んでいく。
 オリガの弟レフ(作曲家としての立場とソ連の諜報機関の工作員の二つの顔を持つ男)などオリガとの関わりの中で描かれている。
 また、動乱前夜の、稀代の演出家スタニスラフスキーたち「モスクワ芸術座」の団員のようす、その後の激動の中での公演活動、妨害工作、放浪などそうした「芸術家」たちの運命も描かれて興味深かった。
 その底流には筆者の、今も世界中で上演されるチェーホフの戯曲への深い共感の思いが流れているように感じる。 
 はたして真実はどうだったのか。追求の内容は、オリガ、レフ姉弟たちにとどまらず、ソ連、ロシアの諜報活動の実態(隠蔽工作なども含めて)にまで及ぶ。読み応えのある一書。
 筆者は、戦争ドキュメンタリー作家として名高い。
「ベルリン陥落」。

「スペイン内戦」。第二次大戦前夜のスペインの内戦の実態を赤裸々に描く。
「スターリングラード(注:ロシアの都市名 ヴォルゴグラードの旧名)」独ソ戦のすさまじい攻防を描く。
コメント
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