5月22日に、ヴァレリー・アファナシエフのピアノ、佐渡裕指揮トーンキュンストラー管弦楽団の演奏で、ブラームスのピアノ協奏曲第2番を聴きました。アファナシエフには以前から関心があったので、青澤隆明さんが彼にインタビューをし、構成した『ピアニストは語る』(講談社現代新書、2016年発行)を読んでみました。
アファナシエフは、1947年モスクワ生まれ、モスクワ音楽院でヤコブ・ザークとエミール・ギレリスに師事。69年のライプチヒ・バッハ・国際コンクール、72年にエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝。74年にペルギーのシメイ城での演奏を終えた後、政治亡命を行い、ベルギー国籍を取得しています。
彼は、異才、鬼才と呼ばれていて、遅めのテンポ設定および間の取り方、音の響かせ方などかなり特徴のある演奏をします。ベートーヴェンやシューベルト、ブラームスといったドイツロマン派の作品の録音を多く残しています。僕はムソルグスキーの「展覧会の絵」のCDを持っていますが、確かにテンポは遅いものです。
ムソルグスキー「展覧会の絵」ヴァレリー・アファナシエフ(p)
本書はインタビューをまとめたものですが、率直に全てのことに応えていて、一人の芸術家の確固とした記録として頗る興味深く読めます。第一部が「人生」で、生い立ち、音楽の勉強、国際コンクール、亡命、亡命後の生活と、アファナシエフの辿ってきた軌跡がわかります。当時のソ連の抑圧された社会や、亡命のことが細部まで語られていて、手に汗握るような場面も出てきます。
第二部では、音楽」のことを語っています。アファナシエフは、『ハーモニーに沿って多くを聴きとるということが重要です。すると、メロディそのものが横に延ばされて、時間を拡張したハーモニーになってくる。・・・そこから自分のすべきことに熟達していくのです。』と述べ、ハーモニーという面から、音楽を見つめ直すようになったと語っています。テンポではなく、ハーモニーを重要視してきているのが意外でした。
ベートーヴェンのピアノソナタ「熱情」の第2楽章について、『リヒテルの録音は、メロディを活かし、動感を伝えようとした演奏の好例』とアファナシエフは述べて、次第に速度を速めているリヒテルのアプローチには賛成しかねるという趣旨のことを話しています。かつて、僕はリヒテルの演奏をレコードで聴いて感激していたので、現代のアプローチはまた違うのかと、アファナシエフの「熱情」も聴いてみたくなりました。