著者の井阪紘さんが経営する「カメラータ東京」は、クラシックやジャズのCDを出していて、僕もいくつか同レーベルのCDを持っています。作曲家の西村さんとその井阪さんとの対談は、レコード・プロデュースという仕事を垣間見ることもでき、興味深々で読み進みました。
NHKテレビのN響アワーに出演していたクラシックの作曲家西村朗さんとカメラータ・トウキョウの社長でプロデューサーの井阪紘さんの対談が収録されています。基本的には、西村さんが井阪さんに質問をする形をとっています。大まかな目次は次のとおりです。
1 魂のセッション 聖地リンツで鳴り響いたブルックナー
2 楽都ウィーン 名手たちとの仕事
ジャズ ―――――――― Interlude (幕間)
3 音楽祭をつくる 草津でかかげた理想の音楽
4 現代の音楽 音として生き続ける
1では、ブルックナーの交響曲の録音現場において、指揮者のクルト・アイヒホルンとプロデューサーの井阪さんのディスカッションの様子が記されていますが、井阪さんが「指揮者の後ろの指揮者」として、よりよい録音を残すためにあらゆる努力を傾注したことが実際にわかります。テンポの扱いや、強弱の扱いなど楽譜の細部にこだわって、録音を完成させていく過程はスリリングでもあります。
レコーディング・セッションでディスカッションするクルト・アイヒホルンと井阪さん。
2では、ウィーンフィルの演奏家の録音を井阪さんがするようになった経緯に興味を惹かれました。前の会社(日本ビクター)にいた時から、特に同年代の人と人間関係をきづいて、それをずっと維持してきているのがすごいところだと感嘆しました。
カール・ライスター(cl)と井阪さん。
ジャズのことについて語ったインタールード(幕間)は、ことに興味を惹く内容でした。井阪さんは、秋吉敏子のアルバムをはじめプロデュースした作品も多いですが、ジャズファンでもあり、フランク・シナトラの唄やジョン・ルイスのピアノが気に入っているようです。
穐吉敏子=ルー・タバキン・ビッグ・バンドによる『孤軍』
西村さんが、『単純なコードに、絶妙なテンションがかかっている。これはすごいセンスだと思うんです。やはり一流のものはすごい。作曲家はこういう音楽はできません。インプロヴィゼーション、ジャズの世界だからできる。』とか、『セッコ(乾いた)タッチの中でどんどん世界を変えていけるというのもクラシックにはないものですね。それはやはりリズムの力なんでしょう。』と語っています。
このあたりの記述は、ジャズファンの一人として嬉しくなりました。また、草津音楽祭のことや現代日本の作曲家の作品などについて語った現代の音楽の章は、特にクラシック音楽に関心のある方には興味を惹かれるところでしょう。最初から最後までエキサイティングな話が多く、一気に読み通しました。