Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

ポトラッチ合戦の結末

2025年03月01日 06時30分00秒 | Weblog
 「腕は立つし、人もいい左官の長兵衛は、困ったことに大の博打好き。見かねた娘のお久は、吉原に身を売る決意をします。事情を察した妓楼の女房・お駒は、長兵衛を諭し、50両の金を貸し与えるが、その帰り道…。

 夜の部ラストは「人情噺 文七元結」。
 故勘三郎が映画でも主演しており、中村屋にとっては馴染みの演目のようだ。
 あらすじは比較的単純で、登場人物によるポトラッチの連鎖によってストーリーが展開する。
 最初のポトラッチは、バクチ好きの父が作った借金返済のため、娘のお久が吉原に身売りするという、純正ポトラッチである。
 その対価として50両を受け取った長兵衛は、その帰り道、回収した売掛金50両を道で掏摸に摺られたと錯覚し、身投げをしようとしていた文七に遭遇する。
 文七は、両親を亡くした自分を大切に育ててくれたご主人・清兵衛に言い訳が出来ないというので、死んでお詫びをしようとしていた。
 つまり、ポトラッチとしての自殺(=ここでは「疑似ポトラッチ」の方)を図っていたのである。
 長兵衛は、親身になって話を聞くうちに同情し、「人の命は金じゃあ買えねえ」と、文七にポンと50両を渡してしまう。
 「追い詰められた一人」を救うための行為であり、これ自体は正当なことと思えるし、一種のポトラッチと見ることが出来そうだ。
 もっとも、後先考えない長兵衛は、文七の名前すら聞かずに走り去ってしまった。
 家に戻ると、当然のことながら、大切な 50両を見ず知らずの人物に、名前すら聞くことなく渡したという話を信用しない妻・お金は、「またバクチで摺ったんでしょ?」と厳しく責める(七之助の名演技に本日一番の拍手!)。
 すると、文七と清兵衛が、昨日のお礼ということで長兵衛宅を訪れ、50両を返却する。
 50両は摺られたのではなく、客先の碁盤の下に置き忘れていたのである。
 だが、どういうわけか長兵衛は50両を受け取ろうとしない。
 そこへ鳶頭の伊兵衛がお久を連れて登場。
 実は、文七からお久の孝行話を聞いた清兵衛が、文七が受けた恩義のお礼にと、吉原からお久を50両で身請けしたのだった。
 これも一種のポトラッチと言えそうだ。
 そして文七とお久は夫婦になるというハッピー・エンド。
 ・・・ポトラッチ合戦における給付と反対給付を見ていくと、最後に清兵衛が行なったポトラッチの代償は、「文七が受けた恩義」という話である。
 要するに、長兵衛は、50両を文七に贈与したことにより、「お久が戻って来る」という反対給付を受けたのであった。
 だが、長兵衛は、依然として、受け取った50両を債権者に返済する義務を負っている。
 というわけで、借金を返済するまで、この話は終わらないのである。
 

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