未だに帰宅して、玄関の鍵が閉まっているとギョッとしてしまう。関係各位に少なからず衝撃を与えてしまったので、何故ギョッとするかに関しては繰り返さない。 部屋の片付けでは、大事にしていた作品を壊してしまいがっかりしている。それは、今までで最も追いつめられ窮地にたたされた想い出深い作品である。1988年制作、未だに傑作との声が高い、高橋幸宏氏の『EGO』(東芝EMI)のレコードジャケット用作品である。 この話は何で私のところに来たか良く判らなかった。デザイン担当者は色々説明してくれるのだが、テーマの『死と再生』はともかく、鉄のような綿のような、など抽象的過ぎて理解できない。とりあえずこういうことだろうか、と頭部だけ作ってみたら「思い切って0か100でいって下さい」といわれてしまった。納期は迫る。悩んだ末、普段使っている粘土を止め、地元で陶芸をやっている先輩の仕事場に泊まり込み、ベニヤ板を土台に、頭の部分を道具土といって、陶器の焼成時に陶器を固定したりに使う土を使い、石膏をかけ、さらに削って岩肌のようにした。そこに銅成分を含んだ塗料を塗り、緑の部分はデザイン時に色を強調したようだが、腐食剤で緑青をふかせた。 そんな頃、できあがりを見たいと、高橋さん他大勢のスタッフが来るという。YMOの1人が家へ来る、というので記念撮影を、と思っていたが、実際はまったくそんなことを言い出せる空気ではなかった。帰る皆さんを追いかけるデザイナー。戻って来て、私が「やり過ぎですか?」というとまさかの「やり過ぎですね」。 その後、会社内部でも反対があり、デザイナーは大変だったと聞いた。当時、レコードジャケットの評は、唯一『ミュージック・マガジン』に1ページあり、デザイナーでもある元プラスチックスの立花ハジメ氏がレコードサイズで見たいと評してくれて感激したものである。 なのに。である。木製のガラス扉の付いた箱に収めていたのだが、今回は『再生したのに死』んでしまった。
※世田谷文学館にて展示中
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