菅首相の消費税超党派協議は与党としての責任放棄に当たらないだろうか

2010-07-01 10:03:07 | Weblog

 民主党2010年参院選マニフェスト「元気な日本を復活させる。民主党の政権政策 Manifesto」には消費税に関して次のように記してある。

 「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始します」

 これ以外に「消費税」に関する言及はない。

 6月17日のマニフェスト発表記者会見でも、菅首相は当然この点に触れて、「超党派の幅広い合意を目指す努力を行っていきたいと思います」と発言している。

 このことに加えて問題発言とされた、「当面の税率については自由民主党のが提案されている10%というこの数字、10%を一つの参考とさせていただきたいと考えております」と税率にまで踏み込んだ。

 但し、「超党派」を言いながら、マニフェストにも書いてあり、本人も「早期に」と言っているが、具体的な開始時期については一切触れていない。

 だが、この消費税発言が響いたのだろう、4日後、6月21日の大手新聞2社の世論調査では菅新内閣発足で折角V字回復した内閣支持率を4ポイントから9ポイント下げている。

 同じ6月21日の夕方、菅首相は首相官邸で記者会見を開催。発言で違う点はマニフェスト発表記者会見では自分からは口にしなかった「超党派協議」の時期について初めて具体的に触れている。

 「私が申し上げたのは早期にこの問題について超党派で議論を始めたい。その場合に参考にすべきこととして、自民党が提案されている10%というものを一つの参考にしたい。こう申し上げたわけであります。そういった意味で、そのこと自体は公約と受け止めていただいて結構ですが、それはあくまでこのマニフェストに申し上げたように、こういう方向での議論を始めたい。そのことについて、その努力は当然のこととして参議院の選挙後にはやってまいります
  
 「何かこの選挙が終わったら、すぐに消費税を引き上げるようなですね、そういう間違ったメッセージがもし国民の皆さんに伝わっているとすれば、それは全く間違いでありまして、まさに参議院選挙が終わった段階から、この問題を本格的な形で議論をスタートさせたい。それを公約という言い方をされるなら、まさに公約とおとらえいただいても結構であります」

 要するに消費税に関わる「超党派協議」は参院選挙後に開始することを考えているのであって、参院選が終わったらすぐ消費税を上げるわけではないということを強調している。

 「超党派協議」と「自民党案10%参考」と議論開始時期の「参院選後」は公約とされてもいいとまで言っている。

 これらの意図の裏を返すと、参院選挙で消費税問題を問うているわけではない、選挙の争点としているわけではないということの強調となる。

 しかし自民党の谷垣総裁が、民主党が目玉政策に掲げている諸政策が消費税増税の前提としているムダの削減のそもそもの阻害要因を成すという立場から、バラマキ政策となっている民主党の衆院選マニフェストを撤回しない限り応じられないと一貫して「超党派協議」に反対していることや他の野党も反対姿勢でいることも影響しているのだろう、菅首相が参院選後の「公約」とまでした必死の“強調”も虚しく、民主党が参院選で過半数獲得微妙とか困難の各種世論調査の結果が出ることとなった。

 大勢不利に苛立ったのか、26日夜(日本時間27日昼)、カナダ・トロントのG8閉幕後の記者会見で次のように発言している。《菅首相:発言要旨》毎日jp2010年6月28日)

 菅首相「財政再建の第一の柱は無駄の徹底的削減。同時に成長戦略によって雇用、需要拡大の中でのデフレからの脱却が大きな柱。その二つに加え、税制抜本改正を議論すべきだ。消費税を含む議論をスタートさせようと提案していることを公約と言われるなら、その通りだ。

 (税制議論の時期は)参院選が終わった段階で、改めて各党に呼び掛けたい。オープンで参加されるかは、呼び掛ける中で決まってくる。今から時期を言うのは適当ではない。

 消費税は所得の低い人が相対的に重い負担になるという性格があり、そこはしっかり考えないといけない。消費税を含む税制改革の議論を始めようと提案しているわけで、呼び掛けるところまでが私の提案であり、理解を頂けるのではないか」――

 一見、6月21日夕方の首相官邸での記者会見で言っていたことと殆んど変化がないように見えるが、消費税率10%に触れていなかったことと、「呼び掛けるところまでが私の提案」と言ったことがマスコミにトーンダウンと受け止められて批判され、野党もこのトーンダウン批判に参戦して、批判の上塗りを謀った。

 呼びかけに応じて開かれることになった場合の「超党派協議」には自分は加わらないということなのだろうか。だとしたら、「超党派協議」が開催される頃には既に首相を退陣していると予想したのかもしれない。

 人によってはこの予想を妥当な予想と受け止めるかもしれない。

 政治は結果責任である以上、消費税を含む税制抜本改革を「超党派協議」を通じて纏めた上で法律として成立させ、税制面から国の建て直しを図るところまでを公約としなければならないはずだ。それを、「呼び掛けるところまでが私の提案」だとした。

 あるいは消費税増税も「税率自民案10%」参考も「私の提案」でないとした。

 「超党派協議」はあくまでも税制の抜本改革のための一つの手段であって、目的は税制の抜本改革そのものでありながら、「呼び掛けるところまでが私の提案」だとすることで、「超党派協議」そのものを目的とした。

 マスコミにトーンダウンしたと叩かれたから、トーンアップを図る必要に迫られたのか、昨6月30日、選挙の遊説先で消費税増税の場合の逆進性緩和策として具体的年収を挙げ、それら年収に応じた税還付方式と、さらに食料品などの生活必需品にかかる消費税率を低く抑える軽減税率の導入に言及した。

 《消費税、年収300万円以下は全額還付も検討 菅首相》asahi.com/2010年6月30日20時59分)
 
 記事は、〈税金還付方式を検討する考えを打ち出しているが、対象の年収の目安を示したのは初めて〉だとしている。

 山形市内の演説――

 菅首相「例えば年収300万、400万以下の人にはかかる税金分だけ全部還付するという方式、あるいは食料品などの税率を低い形にする方式で、負担が過大にかからないようにする」

 青森市内の演説――

  菅首相「年収200万円とか300万円とか少ない人」

 秋田市内の演説――

 菅首相「年収300万とか350万円以下の人」」

 これは地域によって対象年収を違えるということなのだろうか。あるいは大まかに言っているに過ぎないことから、年収額がコロコロ違ったということなのだろうか。

 演説先々で年収額が違っていても、記事は、〈所得税の課税最低限(夫婦と子ども2人の世帯で年収325万円)が念頭にあるとみられる。〉と最後に解説を加えている。

 併せて「超党派協議」も呼びかけているが、「asahi.com」は触れていない。

 《低所得者 消費税分全額還付も》NHK/10年6月30日 17時10分)

 青森市での街頭演説――

 菅首相「あの総理大臣も、この総理大臣も、消費税を言って選挙で負けたので、選挙が終わってからにしたほうがいいと言う人もいる。しかし、ギリシャのように、財政破綻したら、まずいちばん弱い立場の人に被害が出る。・・・・消費税の話をしないで済むなら、話をしないまま、選挙に入りたいと思ったが、選挙が終わってから『いや実は』と言ったら、やっぱりおかしい。選挙が終わったら、正面からほかの党の人たちとも話をしようと言っている」

 「超党派協議」はあくまでも「選挙が終わったら」であって、選挙中の話ではないと断ることを忘れない。

 参考までに「asahi.com」記事と同じとなる秋田市の会合での挨拶――

 菅首相「年収が300万円とか350万円以下の人は、かかった消費税分は全額還付をするというやり方もある。あるいは食料品などの税率は低いままにしておくというやり方もある」――

 税還付の場合の具体的な対象年収額を挙げることで、消費税に対する抵抗感を和らげ、参院選挙への悪影響を少しでも抑えようとする意図を持った発言だろうが、演説の先々で年収額が違うことからも分かるように、関係閣僚と議論を重ね、詰めた案ではなく、自身の思いつき、と言って悪いなら、個人的なアイデアを述べた印象を免れることはできない。

 このことは《菅首相:消費増税 低所得者、全額還付も 年収水準に言及》毎日jp2010年7月1日 0時39分)が証明している。

 首相周辺「今までの議論で年収水準の具体的な話は出ていない。これから詰める話だ」

 記事は山形市の「年収300万円、400万円以下の人には」の発言を伝えた上で、〈還付対象となる年収水準は「200万~300万円以下」(青森市内の街頭演説)、「300万~350万円以下」(秋田市内の講演)と定まらなかった。〉と、他の記事同様のことを書いている。

 「今までの議論で年収水準の具体的な話は出ていない」にも関わらず、「具体的な話」を出した。思いつきと見られても仕方のない唐突な言及だったことになる。

 「超党派協議」は「呼び掛けるところまでが私の提案」だとしながら、あるいは参議院選挙が終わった段階からスタートさせたいと言っておきながら、選挙中であることを無視して、消費税率を挙げた場合の逆進性緩和策として軽減税率方式や税還付方式を挙げ、税還付方式の場合の、まちまちではあっても、具体的な対象年収額まで提示した。

 これも発言のブレの内に入るはずだ。

 これが菅首相個人の独断専行であっても、首相である以上、その言葉の重さからして、民主党政権の約束事、公約と看做される。税還付方式と決まった場合、対象年収額で低い方向に大きく違った結論を導いた場合、選挙中の発言であるだけに投票の基準とした有権者も少なからず存在しただろから、少なくとも言葉の軽さ、発言の責任を問われることになるだろう。

 それよりも何よりも、いくつかの政党が政策を競い合い、その中から一つの政党が国民の選択を受けて、あるいは国民の選択を受けた一つの政党が中心となって連立を組み、政権を運営する形態の民主主義政治に於いて、「超党派協議」は民主主義政治の形態そのものを否定することにならないだろうか。

 一つの政党として国民の選択を受けることができなかった政党は、あるいは連立相手とされなかった政党は野党として、政権奪取して自らの政治を実現することを役目とする。どういった政治を行うか、どういった政策を推し進めるか、常に掲げ続けて国民の選択を待つ。

 こういった構図を民主主義政治がルールとしているなら、消費税を含めた税制の抜本改革政策にしても、各党がそれぞれにその政策を競い合い、各党とも最善と思える案を打ち出し、国の根幹に関わる重要問題であるゆえに、菅首相が6月17日のマニフェスト発表記者会見で、「大きな税制改革を行う場合は予め実施する前に国民のみなさんに信を問うことが本来あるべき道だ」と述べたように衆議院選挙で問うとすることをすべきではないだろうか。

 それができないというのは、税制改革の面で政権運営するだけの能力を欠いているということにならないだろうか。

 また、いくら国の根幹に関わる消費税問題を含めた抜本的な税制改革だからと言っても、消費税やその他の税制だけの問題で終わらず、各党それぞれの各政策は予算算定や予算配分と影響し合う財政及びその規律の問題等と相互に関連し合うことになる。

 いわば同じ消費税率であっても、各党の政策の違いに応じて各予算算定や予算配分に異なる影響を与え、その影響は財政及びその規律の問題等に各党ごとに異なる波及を及ぼす。

 例え消費税で得た財源を社会保障費に使途を限定したとしても、社会保障政策のすべての中身に亘って完全に一致しているということはないから、社会保障政策のどこにどう使われるかは党ごとに違ってくる。

 当然、それは税率の算定に影響してくるはずだ。

 だからと言って、社会保障政策を含めてすべての政策を同じにしたら、競い合いはなくなり、すべての党が与党化し、民主主義体制は壊れ意味を失う。

 いわば厳密には、「超党派協議」は各党それぞれの政策の違いを無視することを前提としなければ成り立たない。

 あるいは政策を競い合うという民主主義のルールを無視しなければ成り立たない。

 このことは既に触れた、自民党の谷垣総裁がバラマキ政策となっている民主党の衆院選マニフェストを撤回しない限り応じられないと主張して「超党派協議」に一貫して反対していることが一つの証明となる。 

 谷垣総裁は妥当な批判かどうか分からないが、「民主党の政策では10%以上でなければならない」とさえ言っている。

 年金制度改革でも超党派の議論を呼びかけたが、菅政権は政権党の責任に於いて年金制度改革であっても、消費税問題であっても、自らの能力で新たな制度を打ち立て、国民に信を問うべきではないだろうか。そうすることで初めて政権党としての責任を果たすことができるはずだ。

 政権党云々を言う前に、それぞれの政治思想を持ち、それぞれの政策を持って一つの政党を組んでいる者としての責任放棄とつながるように思えて仕方がない。

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