菅首相の責任を問うには十分な過半数割れ参院選44議席獲得

2010-07-12 09:32:02 | Weblog

 2010年参議院選挙。民主党が戦後日本の政治史上初めてとなる選挙を手段とした歴史的な政権交代を果して10ヶ月足らずで、その歴史的意義に反して、菅首相自身は「現有54+アルファー」を当選ラインとしていたが、その54議席さえ割る44議席に下げた。

 仙谷官房長官も7月7日の東京・有楽町日本外国特派員協会講演で民主党の政権交代の歴史的意義を訴えていた。菅政権は「歴史的、意味と言いましょうか歴史性」を担っていると。あるいは菅政権は「歴史的な分水嶺の中で成立した政権である」といったふうに。

 菅政権が歴史的なら、鳩山政権も菅政権以上に歴史的ということになる。政権交代そのものを問い、それを選挙を手段として実現させて成立させた政権なのだから。

 だが、あると思われていた指導力のメッキが剥がれて支持率が20%を切る国民の「ノー」の意思表示を受けて自発的辞任。鳩山政権自体は歴史的でも何でもなかった。

 このことからも分かるように、選挙による戦後初めての政権交代そのものは歴史的意義を持つかもしれないが、政権自体が歴史的意義を持つわけではない。歴史的と言える何かを成して、あるいは歴史的と言える何らかの結果を出して初めて歴史的意義を持つ。その点を誰もが誤解している。

 いわば政権交代という歴史的意義を経た、単なる政権に過ぎない。

 勿論、発足後日がないゆえにその成果を見極める材料を持たないうちから菅政権を持ち上げて、歴史的だ、歴史性があるだ、「歴史的な分水嶺の中で成立した政権である」と言っていた仙谷官房長官にしても誤解の達人中の達人と言える。

 もし菅政権自体が現在の時点で歴史性を備えているとするなら、十分な準備をしないままの不用意な消費税増税発言程度で崩れる歴史性は、歴史性という言葉そのものの意味を失わせる。

 菅首相は参院選敗北を受けて記者会見を行った。「NHK総合テレビ」7時ニュースから。

 菅首相「今回の選挙結果は、えー、当初目標としていたところに、えー、かなり届かない、えー、結果に、終わってしまいました。エー、応援をいただいたみなさんには、ま、大変、えー、申し訳ないと思っております。

 えー、その、おー、原因は、えー、一つには、あー、私が、消費税に触れたことが、やや唐突な、あー、感じを持って、えー、国民のみなさんに、伝わったと。

 えー、十分な、あー、事前の、説明と言いましょうか、それが、あ、不足していた、ことが、えー、大きな原因かと、このように私も思っております。

 ただ私は今回の選挙の、オ、結果は、そうした議論そのものが、否定されたとは、思っておりません。もっと、お、慎重に、しっかりと、おー・・・・した、議論を進めるようにと。えー、つまりは、あー、丁寧な扱い、国民のみなさんが求められた、結果だとこのように理解をいたしております。

 ま、今回の、おー、選挙の結果は、えー、真摯に受け止めながら、私としては、改めて、エー、スタートラインに立った、そういう、気持で、ま、責任ある政権運営を、え、今後とも、おー、続けていきたい・・・」――

 マスコミの報道の仕方への責任転嫁が今回は姿を消している。この場に及んでもマスコミに責任転嫁した場合、卑劣と受け止められることだけは承知していたようだ。

 「消費税に触れたことがやや唐突な感じを持って国民のみなさんに伝わった」とする受け止め方で保有議席を10議席も減らし、過半数を失った選挙結果を解釈する感覚からは事態の深刻さをさして感じていない様子しか窺うことができない。

 事前の説明十分でなかったこと、不足していたことが敗因で、議論そのものは否定されたわけではないと自己正当化している。

 だが、民主党政権を率いる最高責任者の位置にいる。日本の政治の今後のありようが菅首相の肩にかかっている重い責任を有している。消費税は国民にとって特に敏感な問題であり、特に中低所得層の生活に大きく影響する切実な政治課題である。当然、菅首相はこのことを十分に理解していたはずであり、理解していなければならない立場にいた。

 いわば前以て十分な説明を準備し、慎重な議論を展開しなければならない立場にあり、そういう態度を取ることが責任ある立場にある者の責任ある姿勢であるにも関わらず、選挙敗北という高い代償を支払ってから、「もっと慎重にしっかりとした議論を進めるようにと。つまりは丁寧な扱い、国民のみなさんが求められた」と気づく。

 この後付の判断能力のお粗末さ、劣弱さは重要な政策に関して首相としての責任を果たさなかった、あるいは果たすことができなかったことの状況を示している。

 そういった資質の政治家に「責任ある政権運営」が果たして期待可能だろうか。

 市民運動家出身だからと、市民目線を大事にすると自ら標榜しているそうだが、国民の要求に後付で気づく鈍感さ、判断能力の欠如は標榜を自ら裏切るということではなく、標榜そのものが見せかけであることを証明している。

 指導者として不可欠な前以て十分な説明を準備し、慎重な議論を展開して国民の納得を得るという資質(=自身の政策をスムーズに実現していく資質)を欠いていた指導者としての責任、その結果として生じた現有54議席から10議席失った責任の双方を痛感もせずに、いや痛感していないからこそ、「選挙の結果は真摯に受け止めながら」は形式的な言辞に過ぎず、「私としては改めてスタートラインに立った、そういう気持で責任ある政権運営を今後とも続けていきたい」とすることができる。

 選挙に大敗を喫していて、「私としては改めてスタートラインに立った」の気持はないはずである。

 同じ「NHK総合テレビ」7時ニュースが谷垣自民党総裁の記者会見の発言を伝えている。

 谷垣「菅さん、あのー、私の代表質問・・・で、ですね、えー、私は与党内で政権をタライ回ししないで、衆院を解散をし、総選挙に挑むべきだと、いう、問いをしましたのに対して、『国民の信を参院選で問うていきたい』、まあ、こう答弁されてるんですね。このまま、アー、続けるというのは、そういう今までの、オ、菅さんのですね、ご発言から見ても、甚だ、あの、おかしなことではないかと。一刻も早く、うー、・・・解散をして、国民の信を問うべきだと――」

 参院選は政権党として国民の信を問う選挙だと野党第一党の党首に対して発言した。そして現有議席を10議席も減らし大敗した。その言葉の責任もある。
 
 菅首相は10月4日、NHK番組「参議院選挙特集」で、次のように発言している。《党首が消費税などで論戦》NHK/10年月4日 12時2分)

 菅首相「この4年間で5回総理大臣が代わった。これ以上、政治が混乱して、何も決められないということになるのか、それとも責任ある安定した政治を取り戻せるのか、今回の参議院選挙の争点は、安定か混乱かだと思っている」――

 しかし国民は「安定」を選択せず、結果として「混乱」を選択し、それを以て民意とした。菅首相が国民の大方の要求を前以て読み取ることができずに十分な事前の説明を欠いたまま消費税増税発言をするという指導者としての資質を欠いた態度にノーを突きつけたのである。

 例え4年間で6回総理大臣が代ろうとも、資質を欠いた政治家を指導者の位置に据えておくことの方が国民に対する背信行為に当たり、国民に対しての冒涜とならないだろうか。

 菅首相が首相の座に居座ることになったとしても、選挙結果によって求心力を大分失うことは目に見えている。

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